ココミミック・マーケット。

それは、オロシヤ国が長く厳しい冬に突入する前に、国をあげて行なわれる大規模なイベントです。
その歴史は古く、第1回ココミミック・マーケットが開催されたのは、もう200年も前のこと。
当初のそれは、手書きの祈祷書の売買を兼ねた、少々宗教色のある小規模な懇親会のようなものだったと言われています。
それが、インテリゲンチャ同士で意見交換をし合うサロン的意味合いを持つ催しに変わり、印刷技術の発明によって、それぞれの参加者の著作交換会に変わり──やがて、その催しは、プロ・アマを問わない、マンガ・小説・詩・評論等学芸発行物の巨大即売会へと変貌を遂げたのです。

それは、いかにも妄想力と飛躍力に優れたオロシヤ国民にふさわしいイベントでした。
が、昨今では、ココミミック・マーケット参加者はオロシヤ国内にとどまらず、外国で活動している多くの作家たちも、自身の発行物を携えて、このイベントに参加するためにオロシヤ国を訪れるようになっていました。
もちろん、国外からの読み専・買い専参加者も多く、彼等はオロシヤ国に多額の外貨をもたらしてくれていたのです。

普段は派閥ごと地域ごとに党大会をしているだけの各派閥の構成員たちが、オロシヤ国ビッグサイトという巨大展示場に一堂に会し、各派閥入り乱れて、この1年間の成果を披露し合うイベント。
それが、オロシヤ国ココミミック・マーケットなのです。

そのココミミック・マーケットの開催が間近に迫っているのですから、氷河王子の憂鬱も当然のことだったでしょう。

去年のココミミック・マーケットは、喧嘩乱闘あたりまえ状態で、盛大かつ大波乱かつ大騒乱かつ大混乱のうちに何とか終了しました。
死者こそ出ませんでしたが、怪我人は800名以上、怪我人の数を4桁の大台に乗せなかった功績が評価され、ココミミック・マーケット会場の警備に当たった陸軍歩兵隊に特別報奨金が支給されたほどです。

イデオロギーの異なる各派閥の猛者たちが、我こそは正義、我こそは王道と、同じ場所で声高に主張し合うのですから、トラブルが起きないはずがありません。
実体を伴わず、事実を無視した、無意味どころか存在自体があやふやな幻影のごとき派閥の主張のために、彼等は争いを繰り広げるのでした。

でも、ココミミック・マーケットは、実は数年前までは、これほどの混乱が起きるような催しではありませんでしたし、これほど盛大なイベントでもなかったのです。
それが、氷河王子と瞬王子が思春期を迎えた頃から、得難い二人の美形キャラを得て、ココミック・マーケット第二次王室ブームが起き、それは回を重ねるごとに加熱していきました。

ちなみに、第一次王室ブームは、氷河王子のお父君と瞬王子のお父君のご兄弟が10代の青年だった頃──と言われています。
第一次ブームの沈静後、ココミミック・マーケットは、十数年間の低成長安定期に入っていました。

そして、訪れた第二次ブーム。
ココミミック・マーケットは、年々、加速度的にその規模と熱気を増していました。






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