そうして迎えた、ココミミック・マーケット開催日。 氷河王子が精魂を込めて作った250ページのぶ厚いマンガ本は、政府広報としてココミミック・マーケット入場者全員に無料配布されたのです。 発行部数は50万部。 氷河王子の力作は、オロシヤ国ココミミック・マーケットで一大旋風を巻き起こしました。 瞬王子への愛のために 二ヶ月間、瞬王子との××の時以外ほとんどベッドに入らずに描き切った氷河王子のマンガは、デッサン、トーンワーク、コマ割りから効果まで、プロ顔負けのものでした。 ストーリーの運びに、初心者特有の荒さはありましたが、それが逆に勢いを感じさせ、読む者の胸に迫ってきます。 しかも、ありきたりすぎ刺激がなさすぎて受けないだろうと言われて長く無視され続けてきたカップリングを題材にした作品は、王室パロを読み慣れている国民たちの目に、むしろ斬新に映りました。 かてて加えて、わかりやすい勧善懲悪、メリハリのある起承転結、明快にして明確なテーマ、美形の登場人物と、繊細で迫真的な心理描写、大胆なえっちシーンと、ラストのカタルシス、読後の爽快感。 それは、出色の出来の本でした。 欠点がないという欠点すらないほど、完璧な本でした。 氷河王子は、もともと才能豊かな王子様でしたし、これまでにたくさんの献上本を読んでいましたから、本作りのコツは心得ていたのです。 ──1冊の本。 それはたった1冊の本にすぎませんでしたが、その本の持つ力は強大にして絶大でした。 氷河王子の作品は、ココミミック・マーケットの多くの参加者たちを、氷瞬らぶらぶジャンルに開眼させることに成功したのです。 その日を境に、それまでたった二人のメンバーで構成されていた氷瞬らぶらぶ派閥は、一躍、オロシヤ国創作学芸界の最大派閥に躍進することになったのです。 派閥というものは、実体を伴わない空気のようなものであるだけに、その操作もまた、非常に安易かつ容易に成し得るものだったのでした。 |