II






ヒョウガ以外にも魔女の呪いを受けた者たちがそこにいる──とヒョウガが言っていたことを思い出し、シュンは驚愕のために跳ねあがった胸の鼓動を、必死に静めようとした。
魔女の呪いなどというものが現実にありえたのである。
伝説上の生き物たちがこの場に大集合していても、驚くにはあたらない。

ヒョウガが、シュンの心を落ち着けようとしているのか、昨夜の寝台での振舞いが嘘のように思える穏やかな物腰で、シュンの側に近寄ってくる。
シュンは、彼の白い翼の上にそっと手を置いた。

途端に、塔の上の方にいるフェニックスが、ギャーギャーと大騒ぎを始める。
フェニックスは、なぜかひどく不機嫌そうだった。
それでも、羽ばたきのたびに飛び散る火花で火傷を負わせることを恐れているのか、その鳥は、シュンたちの側には近付いてこない。

逆にペガサスは、シュンに親しげだった。
ドラゴンは、そもそも身体が大きすぎて、塔の回廊に長い胴を横たえたまま。

それが白鳥だけならまだ 手の込んだ芝居を疑うこともできたが、伝説上の生き物たちの姿を自分の目で見ることになったシュンは、もはや魔女の呪いの存在を疑うことはできなかった。
それは、事実なのだ。
が、不思議と、彼等を怖れる気持ちはシュンの中に湧いてこなかった。
彼等は、どの生き物も見惚れるほどに美しかったから。

その日、シュンは、白鳥の身体を洗ったり、ペガサスの毛並みを整えたり、また彼等の食事の世話をしたりして、一日を過ごした。
ペガサスは、シュンをその背に乗せて、塔の上の方にいるドラゴンやフェニックスを間近で見せてくれたりもした。


そして、驚きの一日が暮れる。
やがて、夕闇が東の塔を内と外から包み始めた。






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