ヒョウガたちに呪いをかけた魔女というのは、なんと現皇帝の内親王──ということだった。
首都の皇宮を離れ、今はヒョウガの城から馬車で半日ほどの場所にあるジガンスクの離宮に逗留しているらしい。
なぜ、そんな高い身分の姫君が、魔女と呼ばれるようなことをすることになったのか、シュンにはまるで合点がいかなかった。

ヒョウガは、シュンが彼女に会うことを止めたのだが、そのヒョウガをイッキが止めた。
「シュンは、大抵のことで他人に従順だが、一度こうすると決めたことは、誰に何と言われようと実行する奴だ。止めても無駄。あのおとなしそうな顔に騙されたクチか、もしかして、おまえ」
さすがに実の兄は、弟をよく知っている。

「シュンはベッドでは素晴らしく従順だぞ。俺のどんな望みも叶えてくれる。何の不都合もない」
無論、ヒョウガも負けてはいなかったが。

ともあれ、ヴィルボア公爵の名を出すと、シュンの面会の希望はすぐに叶えられた。
兄とヒョウガの確執など知りもせず、シュンは彼女との対面に臨んだのである。

「あら、あなた」
“魔女”は、シュンの想像とは違って、まだうら若い少女だった。
なかなかに美しく、皇女らしい気品もある。

「あなたも聖闘士ね」
「え?」
その夜、シュンたちが通された皇女の館の客間で、彼女は、彼女が呪いをかけた4人の貴族たちには目もくれず、シュンの側につかつかと歩み寄ってきた。

「見あげた心掛けだわ。自分から私のところに来るなんて」
「はい?」
「あなた、不思議な力があるでしょう」
「ど……どうしてそれを……」
今日初めて出会った少女に、誰にも知らせたことのない秘密を言い当てられて、シュンはひどく慌てた。






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