シュンが、自分のその力に気付いたのは、兄が養父母の家を出て間もなくのことだった。
それは、呪いや幻術のように人間に作用するものではなく、自然を──空気を自在に操る力だった。
その気になればシュンは、そよ風はおろか、小規模の嵐を起こすことさえできた──のである。
そんな力を持っていることを人に知られ、化け物と思われたりしないように、シュンはずっと注意してきた。
それは、誰にも知られていないことのはずだったのだ。

恐る恐る、シュンは、自分の横に立つヒョウガの顔を盗み見た。
彼に化け物と怖れられ蔑まれることにだけは耐えられない。
彼は、少し驚いたような目を──あの青い目を──シュンに向けていた。
シュンの胸が、ずきりと痛む。

だが、今は、そんなことよりももっと重要な問題を、シュンは抱えていた。
自分に向けられるヒョウガの奇異の目よりも。
だから、シュンは、ヒョウガの眼差しを無理に忘れ、魔女──アテナと名乗った──に食ってかかったのである。
「ど……どうして、乙女じゃなきゃ駄目なんですか!」

「え? 乙女? 何のこと?」
「しらばっくれないでください! ヒョウガたちの呪いを解くには、乙女の真実の愛が必要だって……!」
シュンの切羽詰った心も知らず、ヒョウガたちに呪いをかけた魔女は、シュンの訴えを聞いても、のんびりした態度を崩すことをしなかった。

「どうして僕じゃ駄目なの……」
「ああ、あのこと。だって、それが、こういう時のお約束でしょ」
「そんなお約束……!」
「お約束はお約束ですもの。それより、あなた。あなたも、そこの愚か者たちと同じ、私の聖闘士よ。小宇宙でわかったわ」
「聖闘士? 小宇宙って何ですか? ヒョウガたちと同じ?」

彼女は、シュンの知りたいことには一向にまともな返事を返してこない。
どうやら、彼女の関心は、シュンとは全く違った方向に向けられているようだった。






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