“聖闘士”というのは、ギリシャ神話の戦いの女神アテナと共に、世に現れた邪悪を倒すべく運命づけられた戦士──ということだった。
聖闘士は、その時代時代に星座の数と同じだけ存在し、その星座の特性に即した特殊能力を持つ。
その力の源が、“小宇宙”と名付けられているもの。
シュンの持つ不思議な力は、その小宇宙の成せる技で、ヒョウガたちも同じような特殊な力を有しているのだという。

魔女──皇女は、女神アテナの生まれ変わりで、ヒョウガたちの呪いは、彼女の要請にも関わらず、彼等が聖闘士になることを拒んだから。
女神である彼女の力を信じようとしない彼等への見せしめのためにその力を使ったのだと、彼女は、得意げに言ってのけた。

「アテナの生まれ変わり……って……。それは、ギリシャ神話の女神でしょう。邪教です」
シュンはもちろん、ロシア正教を信じる敬虔なクリスチャンである。
邪宗に走るつもりなど、毛頭ない。

ヒョウガたちにかけられた呪いを実際に目にしていなかったなら、シュンは彼女を誇大妄想狂患者と断じていただろう。
しかし、彼女は、彼女なりの確信を抱いて、そんなことを言っているらしかった。

「堅苦しいこと言うものじゃないわ。そもそも、キリストだって、もとをただせば、古代宗教の太陽神に由来した存在なのよ。クリスマスはミトラ教の冬至祭、不滅の太陽神を祝う祝祭で、ミトラの太陽神は、ギリシャ神話でいうヘリオスよ。すべての宗教の根っこは同じなんだから」

「そ……そうなんですか?」
「私は、すぐにバレる嘘なんか言わないわ。でも、神様の名前なんてどうでもいいこと。大事なのは、その中身でしょう。あなたは、神々に選ばれたことを光栄に思い、正義のために闘えばいいのよ。でないと」
「でないと?」
アテナに半ば気圧けおされたていで反問したシュンに、アテナが意地の悪い笑みを向けてくる。
立て続けに、彼女のしもべたる聖闘士たちの造反にあって、彼女は少々ひねた気持ちになっているらしい。

「あなたにも、あの白鳥やペガサスたちと同じ呪いをかけてあげるわ」
「同じ呪い?」
「そうよ、昼の間は自分の星座の姿になって、夜しか人間に戻れなくなるの」
「僕は、何になるんですか?」
「あなたは、アンドロメダ座の聖闘士だから、当然お姫様になるわ!」

「…………」
アテナの言葉に、シュンは、一瞬きょとんとした。
そして、彼女は、彼女が今 口にした呪いの意味がわかっているのかと、シュンは訝った。

「お姫様?」
「そうよ、アンドロメダ座は、古代エチオピア王家のアンドロメダ姫の星座ですもの。ほーっほっほっほっほ。私に逆らえば、あなたは女の子になってしまうのよ。屈辱でしょう」
「あの……それって、僕があなたに逆らえば、僕は夜の間だけ“乙女”になれるってことですか?」
「へ……?」

つまりはそういうことである。
彼女がシュンに呪いをかければ、シュンはヒョウガたちの呪いを解く力を与えられることになるのだ。






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