呪いを盾にした自分の脅迫が全く無効だということに気付いたアテナは、呆然と 「わ……私は、地上の平和のために与えられた力を、人々のために使うよう、彼等に要請しただけよ! 悪いことをしようとしたわけではないわ! なのに、どうして、あなたたちは私の言うことをきこうとしないの! これだから、自分さえ良ければいいっていう、事なかれ主義の金持ち貴族は嫌いよ。この地上には邪悪に虐げられて苦しんでいる人たちが大勢いるっていうのに……。私は、次代の聖闘士の力はみんな、貧しく虐げられている境遇の者だけに与えることにするわ! あーいあーいあーい!」 「あ……」 女の子を泣かせるなどというようなことは、シュンには生まれて初めての経験だった。 泣かれても対処の方法がわからない。 「この我儘女め! 呪いの二律背反とは大笑いだな! だが、それもこれも全て自業自得だぞ。人の人生に口出しして、あれこれ勝手に指図しようとするからだ!」 涙する少女の前で おろおろしているシュンとは対照的に、ヒョウガは勝ち誇った態度である。 その後ろでは、セーヤたちが、呆れたような顔でアテナと名乗る少女を見おろしていた。 白鳥に姿を変えられるなどという大変な目に合わされたのだから、ヒョウガの怒りも至極尤もではあるが、シュンはさすがにアテナへの同情心が勝ってきてしまったのである。 「ヒョウガ……あの……」 「なんだ、シュン?」 シュンに名を呼ばれたヒョウガが、アテナへの傲岸な態度をころっと変えて、シュンの方を振り返る。 シュンは、そんなヒョウガの顔を見あげて、遠慮がちに彼に提案してみたのだった。 「その聖闘士っていうの、やってみませんか?」 一瞬間後、対シュン用 ヒョウガの笑顔が凍りついた。 |