牡羊座、牡牛座、獅子座、乙女座、天秤座、蠍座。 現在、生きて聖域にいる黄金聖闘士は、その6人だけである。 その6人が6人とも、アテナ神殿の玉座の間で、決死の表情をした3人の青銅聖闘士たちの前で頭を抱えていた。 仲間を思う青銅聖闘士たちの熱き友情に、彼等のうちのある者は呆れ、ある者は立腹し、またある者は何やら疲れ果てているようだった。 「何のために1週間の猶予を与えたのか……」 ムウが、脱力したように呟く。 アテナの聖闘士たちを玉座から見おろす女神は、こめかみを引きつらせていた。 「君たちは、なぜそんな健全な方向にしか頭が向かないのだ!」 「へ?」 最初に氷河たちを責める言葉を吐いたのは、乙女座の黄金聖闘士だった。 氷河たちの行動に相当立腹しているらしく、最も神に近い男の声は後半が裏返ってしまっていた。 「特に、キグナス! 貴様、それでも男か! つくべきものはちゃんとついているのか、この腑抜けが!」 「なに?」 胴間声で氷河を侮辱してきたのは、牡牛座の黄金聖闘士である。 いったい黄金聖闘士たちは何に腹を立てているのか──が、3人の青銅聖闘士たちにはまるでわからなかった。 もちろん、聖域に造反を企てて この場に乗り込んできた自分たちが、彼等に快く迎え入れられるはずはない。それはわかっていた。 が、彼等の怒りは、どうも、氷河たちの想像とは全く別の方向に向けられているようなのだ。 虚を衝かれたような顔をしている青銅聖闘士たちに、アルデバランが大袈裟な舌打ちをする。 それから彼は、氷河に向かって、更に怒声を響かせた。 「いいか。アンドロメダが心ばかりか、身体までも汚されようとしている。そういう時、自分がどう行動すべきなのかもわからんのか、貴様は!」 「どう……とは」 「『他人に汚されるくらいなら、この俺が』! これだろう、恋する男の一般的な考え方は!」 アイオリアが、いやにきっぱりと断言する。 さすがは、『えーい、面倒!』が決めゼリフの大雑把聖闘士──もとい、聖域一果断な決断力に富む黄金聖闘士である。 「…………」 「ったく、大きな闘いの前に未練の残らないようにとお膳立てしてやった わしたちの親心も知らずに、まったくもって不甲斐ないことじゃのう」 心底情けなさそうにぼやいたのは、天秤座の黄金聖闘士。 そこまで言われて、氷河はやっと理解したのである。 ムウがわざわざ日本までやってきて言語道断の聖域の決定を披露してみせたのは、氷河をけしかけるためのただの狂言で、瞬に与えられた1週間の猶予は、実は氷河のために設定された時間だった──ということを。 要するに、黄金聖闘士たちが(氷河に)本当に言いたかったことは、『与えられた1週間の猶予期間の内に、さっさと瞬をものにしろ』ということだったのだ。 そんなことを言われても──と、氷河は思ったのである。 それならそうと、ストレートにはっぱをかけてくれればいいではないか、と。 しかし、アテナの聖闘士の中でも最高位にある黄金聖闘士たちがわざわざ骨を折ってくれたとなれば、まさかここで『余計な手出しは無用』と一介の青銅聖闘士氷河ごときに言えるはずがなかった。 「──鈍感ですまなかった」 氷河は黄金聖闘士たちに素直に頭を下げた。 「まったくだ」 6人の黄金聖闘士たちが、ほぼ同タイミングで、揃って顎をしゃくる。 氷河にも言いたいことは多々あったのである。 あったのではあるが、彼はそれを口にすることはできなかった。 「 不機嫌な女神に、最後のとどめを刺されてしまったせいで。 |