「しかし、アンドロメダは敵を倒すたびに傷付いて、これまでよくアテナの聖闘士としてやってこれたものですね。我々は、それが邪悪なら、倒しても何とも思わない」 そうでないと、黄金聖闘士は黄金聖闘士などという商売はやっていられない。 ムウは、自分たちが失ってしまったものを、幾多の闘いを経てもなお保持している瞬に対して、いっそ驚嘆の思いを抱いていた。 そして、彼の仲間たちの、駆け引きも計算もクールのクの字もない友情というものにも。 自分たちが同じ立場に立たされたなら──仲間が敵に利用されるようなことがあったなら──いったい自分たちはどうするのだろうかと、ムウはふと考えた。 が、彼はすぐに、そんな事態が起こるはずはないのだと思い直したのである。 アテナの聖闘士の最高位にある黄金聖闘士ともあろうものが、その誇りを捨て去るような真似を、たとえ死んでもするはずがない、と。 そんなことを考えながら、やけ酒を食らっている仲間たちを一渡り見まわしたムウは、いつになく寡黙なミロの様子に気付き、彼に声をかけた。 「ご機嫌斜めのようですが、あなたも、言葉も出ないほどキグナスの不甲斐なさに立腹したクチですか?」 「そんなことは、今更再確認しなくても知っている。そうではなく、俺はだな! うまくすれば、役得できるかもしれないと期待していたんだ!」 「役得?」 ムウの反問に、ミロは手にしていたグラスのコニャックをあおってから、一気にまくしたて始めた。 「考えてもみろ! アンドロメダを汚すのにだな、生き延びている者たちの中では、俺がいちばんの適役だろーが。アルビオレを倒した仇に汚される屈辱と憎悪に、アンドロメダがあの可愛い顔を歪ませて俺を睨んでくれたら、俺はそれだけで昇天していただろうに!」 「…………」 同じ志で一致団結していると思っていた仲間の中に、どうやら邪まな欲望を抱いた不穏分子がひとり紛れ込んでいたらしい。 己れの想像にうっとりし始めた蠍座の男に、乙女座の黄金聖闘士は心底から嫌そうな視線を向けた。 「負い目も持ち駒に変えようとする、そのポジティブな姿勢だけは評価してやらないでもない」 「最も神に近い男に、そんなに尊敬されると照れるが」 「やはり、ただの馬鹿か」 シャカは、自分の仲間の一人が大馬鹿者だという事実に立腹し、わざとらしく瞑目した。 「ともかく、 「前座の俺たちができるだけ冥界の動きを封じておく必要があるだろうな。できれば、主興行を開催せずに済むように。キグナスが不甲斐ない奴だということは、よくわかった」 「そこがいいんでしょう、アンドロメダには」 「あんな可愛い顔をして、悪趣味にもほどがある」 ひとりだけ別次元にいるミロを無視して、黄金聖闘士たちは新たな闘いへの決意を固くした。 |