己れのプライドも、アテナの聖闘士たちの愚かさも忘れ、アルベリッヒは彼の目の前にあった扉を押し開いた。
「それは本当か。ヒルダ様が……うわああっっ !! 」
そこで彼の視界に飛び込んできたものは。

──昼間から衣服を乱して、ラウンジの長椅子の上で身体を絡ませ合っている白鳥座の聖闘士とアンドロメダ座の聖闘士の姿だった。

「ななななななななんだーっっ !? 」
氷河は彼の膝の上に座らせた瞬を背中から抱きしめ、剥き出しになった白い肩に唇を押し当てている。
瞬は、氷河のもう一方の肩に頬を預け、半ば恍惚とした表情で固く目を閉じていた。
アルベリッヒは、彼等の下半身がどういう状態になっているのかを確かめるのも恐ろしかった。

アルベリッヒの姿に気付いた氷河が、さして慌てた様子もなく不快そうに片眉を歪める。
「アスガルドの神闘士はデバガメが趣味なのか?」
いつ人が来るかわからない日中の休憩室でそういう行為に及ぶ人間に、他人をデバガメ扱いする権利があるのだろうか。
『いや、ない』と、アルベリッヒは確信を持って(胸中で)断言した。

「や……やだ、や……」
氷河に制止を求めているのか、あるいはアルベリッヒに対する『見ないでくれ』という懇願なのか──瞬が悩ましい声を漏らして、氷河の腕から逃れようとむずかるように身体を揺らす。
だが、瞬が本当に氷河から解放されたがっていたのかどうかは、実に怪しいところだった。

「ああ……っ!」
その動作が逆に瞬の身体の中に刺激を生んでしまったらしく、瞬は喘ぎとも悲鳴ともつかない声をあげて、氷河の膝の上で全身を小刻みに奮わせ出した。
アルベリッヒの目に、その様は、瞬がもっと大きく動きたい欲求を必死に抑えているようにしか見えなかった。

こんなことをしながらこの二人は人の人生を語っていたのだと思うと、アルベリッヒは、全身の血液のすべてが頭にのぼってしまったのである。
ほんの一瞬でも、アテナの聖闘士たちの忠告を容れて考えを改めようとしていた自分自身に腹が立って仕様がなかった。

開いた時の100倍の力を込めて、アルベリッヒはラウンジのドアを閉じた。
城戸邸の廊下に、屋敷も崩れ落ちそうなほど大きな音が響き渡り、その音が長い廊下に木霊する。
その木霊が人間の普通の聴力では聞き取れないほど微かなものになった時、
「あれっ? 氷河たち、もう終わってたのか?」
──という天馬座の聖闘士の声が、アルベリッヒの許に届けられた。






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