「俺は! たった今、新しい野望を見付けたっ!」
つい数時間前まで馬鹿だ阿呆だとののしり続けていた相手に、アルベリッヒは全力で言い放った。

「ほう?」
星矢の隣りにいた紫龍が、興味深げな様子で、アルベリッヒの言葉の先を促す。
そんな二人のアテナの聖闘士の前で、アルベリッヒは力強く宣言したのである。

「俺は、あんなフザけた真似をしながら他人の人生を語る無礼な奴等を、この世から抹殺してやる!」
今、アルベリッヒは、とてつもなく前向きだった。
そして、あまり冷静ではなかった。
が、夢や野望というものは、往々にして、人が興奮状態にある時にこそ生まれるものである。
彼は非常に一般的な人間なのだ。──おそらく。

アルベリッヒがどういう経緯でその野望に辿り着いたのかを察したらしい星矢は、深い同情と同感を全身に漂わせて、“昨日の敵”に頷き返した。
「あー、わかるわかる。迷惑なんだよな。あの二人、昼日中っから暇さえあればあれだもん。おかげで俺たち、おちおちこの邸の中の散策もできないでいるんだ。早いとこ、新しい敵さんでも出てきてくれないことには、あの二人いつまでも繋がりっぱなしだぜ」

「俺がその新たな敵になってやる! ふざけるな、キグナス、アンドロメダ!」
何という心強い決意だろう。
星矢は、頼もしい味方の登場に瞳を輝かせ始めた。
しかも、その頼もしい味方はアスガルド一の頭脳と陰険さの持ち主なのである。
アルベリッヒの敵はそら恐ろしいほどに非常識かつ強大だが、彼の野望の実現は決して不可能なことではないはずだと、星矢は期待した。

「あのさ、でもさ。俺、氷河と瞬を殺すより、氷河をデキない状態にする方が、あの二人のダメージは大きいんじゃないかと思うんだ。シたくてもデキないのって、男にとっては最大の屈辱だし、自信喪失することだろ。氷河には最悪の事態だと思うし、瞬も、あんな顔して かなり好きらしいから、シてもらえなくなったら絶対落ち込むぞー」

「ペガサス。貴様、結構利口だな」
確かにそれは、馬鹿なくせに傲岸不遜なあの白鳥座の聖闘士には、殺されるより屈辱的なことに違いない。
その野望が実現すれば、素晴らしい報復が成就できそうだった。

「いや〜、アスガルド一の頭脳の持ち主に褒められると、照れるけどさ。でも、俺たち、あの二人にはほんとに迷惑してたんだぜ。な、紫龍」
「うむ。全く」
「君たちはこれまで健気に耐えてきたのだな。尊敬するぞ。しかし、君たちの忍耐の時はまもなく終わりを告げることになるだろう。このデルタ星メグレスのアルベリッヒが全力をもって、あの二人にぎゃふんと言わせてやる!」

アテナの聖闘士2名とデルタ星メグレスのアルベリッヒは、ここに完璧な利害の一致を見た。
『ぎゃふん』はさすがに死語だろう──などという不粋な突っ込みも思いつかないほど、アテナの聖闘士たちはアスガルドの神闘士・デルタ星メグレスのアルベリッヒの固い決意に感動したのである。






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