「──1941年といえば、大戦中じゃないか」 探りを入れるように、氷河は瞬に尋ねた。 瞬が、純白の雪の代わりに白銀色に輝く星を見詰めながら頷く。 「うん。この歌、家族と離れた戦地で聞いたり歌ったりした人もたくさんいたろうね。ヨーロッパの北部戦線に行ってた米軍の兵士なんか、案外、ホワイトクリスマスの中で、ホワイトクリスマスを夢見て、この歌を歌っていたかもしれない──変な話だね」 「瞬──」 アメリカ人の一般的なクリスマス──がどんなものなのかを、氷河は知らなかった。 知りたいと思ったこともない。 美しく聡明な母親、強く成功した父親、下品で笑えないアメリカン・ジョークを連発する兄弟たち、ツリーの周りにはプレゼントが置かれ、家族揃って『ジングルベル』を歌う──せいぜいそんなところだろう。 だが、そんなものに郷愁を感じる米国人もいれば、そんなものにすら縁のない日本人もいる。 「……そうだね。僕がホワイトクリスマスに憧れたって仕様がないよね。憧れようにも、僕はそれがどんなものなのか知らないんだから」 「…………」 氷河はやっと、瞬が欲しがっているものがわかった。 だが、それは、氷河自身も知らないもの、持っていないものである。 氷河が言葉もなく瞬の横顔を見詰め、その視線に気付いた瞬が、困惑したように──氷河の視線にではなく、そんなことを口にしてしまった自分自身に困惑したように──ぎこちない笑みを作る。 「ごめんなさい。気にしないで。僕も、氷河と一緒にいられるのなら、毎日が特別で大事な日だよ」 瞬が無理に作った微笑は、冬の夜空で心細げに白く瞬く星のように力のないものだった。 |