翌日から、氷河は仕事に出掛けていった。
楽な仕事だと言っていたわりに、彼は夜にも彼の部屋に戻ることはなく──彼はどうやらホテルに泊り込んで労働に勤しんでいるようだった。

「終日拘束されるわけじゃないから、楽な仕事だとか言ってたのになぁ」
「真面目に労働に従事しているのなら、結構なことじゃないか」
そんなことをぼやいている仲間たちの許に氷河が帰ってきたのは、それから3日後、12月24日の夕方だった。
雪焼けでもしたのか、もともと浅黒い肌が微妙に濃さを増している。
3日ぶりに帰宅した彼は、そして、何やらとんでもない大荷物を城戸邸に運び入れてきた。

「ホテルの仕事は今夜が本番だろう。いいのか、戻ってきたりして」
さすがにこの事態を訝った紫龍は、(ホテル側の都合を)心配して、氷河に尋ねたのである。
尋ねられた氷河は、手にしていた紙袋をラウンジのテーブルの上に置きながら、紫龍の顔を見もせずに答えた。

「言ってなかったか? あの仕事はカミュに代役を頼んだ。あのホテルの上では、たった今も豪快に雪が降ってるさ」
「おまえ、自分の師に働かせて、その金で、自分は豪華なホテルで瞬と豪華なナニをするつもりなのかよ!」
「それはやめた。瞬が本当に欲しがっているものがわかったのに、そんなことをしてる暇はない。おまえらもさっさと支度をしろ!」

星矢の非難を軽く無視した氷河が紙袋の中から取り出したものは、妙に安作りなトナカイの衣装 とサンタクロースの衣装だった。
それを、星矢と紫龍に身に着けるように命じる。

「なんで俺がンなことしなきゃなんねーんだよ! だいいち俺は、これから星の子学園に行くことになってるんだぜ」
「そんなことだろうと思って、星の子学園には、星矢は食いすぎで腹を下して外出はできそうにないと連絡しておいた」
「俺は、今夜は△▽寺の座禅会に参加する予定でいるんだが」
「無論、それもキャンセルした」

「おい、氷河。おまえ勝手に……!」
星矢と紫龍のクレームを、氷河は、これまた至極あっさりと無視してのけたのである。
「カミュは事情を話したら、快く俺の仕事の代役を引き受けてくれたぞ。沙織さんも、経団連のパーティだか談合会だかをキャンセルしてくれた」
星矢の鼻の頭に赤いボールを貼りつけながら氷河が言った言葉に、星矢と紫龍が目を剥く。

いったい氷河は何を企んでいるのだろう。
二人は、まるで訳がわからなかった。

「氷河っ、なんで俺がトナカイの扮装なんかしなきゃならないんだよ! こんなのつけてたら、ケーキが食いにくいだろっ」
まともな説明もせずに、氷河はひとりでさっさと事を進めていく。
その“事”の内容がわからない星矢が氷河の横暴を責め、氷河は、そんな非協力的な仲間に向かって大きな怒声を響かせた。

「文句を言うなっ! おまえらは瞬の家族だろう! 俺ひとりじゃ駄目なんだっ!」
「…………」
星矢と紫龍は、なぜここでそんな理屈が飛び出てくるのか、全く理解できなかった。






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