大切な家族のためのイベント。
それは、だが、決して瞬の言うように『十分』なものではなかった。
十分ではないことを、その場にいた誰もが気付いており、だが口にはせずにいた。
主催が氷河では、それも致し方ないことと、皆が勝手に了承していたのだ。

だが、氷河のホワイトクリスマスの準備は、やはり完璧だったのである。
それはまもなく瞬たちの知るところとなった。

瞬の家族たちがテーブルに着き、テーブルの中央にあるケーキの蝋燭に火を点して部屋の灯りを消し、『聖夜』を歌う。
次に部屋の灯りがつけられた時、部屋の中にはいつのまにやら、高さが2メートルはあろうかという巨大な箱が運び込まれていた。

「瞬、おまえへのプレゼントだ」
「プレゼント? すごく大きいね」
「おい、今、なんか ひやっとしなかったか」
「した」

いったい氷河は瞬へのプレゼントに何を選んだのかと、その場にいる全員が氷河の巨大プレゼントに注目する中、氷河は意気揚々とその箱に結ばれていたピンクのリボンを解き、その中身を瞬に披露した。
箱の中から出現したのは、賑々にぎにぎしいクリスマス・パーティには縁起でもない氷の棺。
その中に閉じ込められていたのは、もちろん、瞬の実兄だった。

「に……兄さん…… !? 」
「どうだ? おまえがいちばん喜ぶプレゼントといえばコレだろうと思って、必死に捜してきたんだ。この馬鹿、クリスマスが近いっていうのに、オーストラリアなんかをうろついていやがった」
氷河はどうやら南半球を徘徊していた一輝を、瞬のホワイトクリスマスのためにかなり乱暴な手段で拉致してきたものらしい。
星矢と紫龍は、今になってやっと氷河の日焼けの訳を理解した。

それにしても、である。
「オーストラリア……って、よく見つけられたな、氷河」
「正確にはキリバス共和国だ。フェニックス諸島の近所にクリスマス島がある。実にわかりやすい馬鹿だな、こいつは」

「兄さん……生きてるの?」
いくら何でもこれは、『わあ、素敵なプレゼント! ありがとう、氷河。僕嬉しい!』と喜べるプレゼントではない。
瞬は、震える声で氷河に尋ねた。

とはいえ、瞬がそんなことを氷河に尋ねることができたのは、兄が生きていることを確信できたから──ではあった。
微かにではあるが、瞬は一輝の小宇宙を感じとることができたのである。
が、今生きているからと言って、安心はできない。
なにしろ、瞬の兄が納められているのは、普通の人間なら到底その中で生きていられるはずのない絶対零度の氷の棺なのだ。

「これくらいのことで死ぬような奴じゃないだろう。不死鳥だそうだし」
氷河は、一輝の生死を確かめてもいないらしい。
「…………」
あっさり言ってくれる氷河に呆然とした瞬は、それから、これは兄の強靭さに対する氷河の強い信頼の現われなのだと、無理に思おうとした。
ともかく、不死鳥座の聖闘士は生きているのだ。






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