「俺、こーゆーのどっかで見たことあるなぁ」
氷河のプレゼントをまじまじと(ノンキに)眺めていた星矢が、ふいにぼやく。
同じことを考えていた紫龍が、彼に頷き返す。
「東大寺の金剛力士像だろう。そっくりだ」
「それだ! 怒り心頭の仁王様」

実際、氷の棺の中の一輝の怒りの形相はすさまじいものだった。
氷河にその技を繰り出された時の彼の憤怒を察して余りあるほどに。
「俺はこいつに、アタマにピンクのリボンをつけて、瞬のプレゼントになってくれと丁寧に頼んだんだ。瞬のためだと何度も頭を下げたのに、この馬鹿が、俺の主催するパーティに出るのは嫌だと断固拒否するから、仕方なくこういう仕儀になった。だが、まあ、この方が静かでいいだろう」

氷河は本気で──あるいは意識的に── 一輝の生死を気にかけていないようだった。
その様子を見て、星矢と紫龍は、氷河の言う『丁寧』や『下げた頭の角度』に大いなる疑惑の念を抱いたのである。
が、彼等は、その件に言及し氷河を責める勇気を、今は持ち得なかった。

低温には絶対零度という限界があるが、高温には原理的に限界は存在し得ない。
しかも、一輝のこの憤怒の表情。
炎の聖闘士である彼は、理屈では、この氷の棺から抜け出ることが可能なはずなのである。
実際、一輝はそれを試みたはずだった。
彼が氷河の作った棺の中に大人しく納まっていられるわけがないのだ。

だというのに、一輝はなぜ氷の棺に閉じ込められたままなのか。
それは、どう考えても、氷河の執念と馬鹿さ加減が、一輝の怒りを超えているから──に違いない。

そういうわけで、星矢と紫龍は、一輝の怒りをも凌駕する氷河の馬鹿さ加減に、敢えて闘いを挑む気にはなれなかったのである。
それは、最初から敗北が見えている闘い──しかも、勝っても負けても空しいだけの闘いなのだから。

「おい、瞬。こーゆープレゼントもらって、おまえ嬉しいか?」
「あ……」
一輝が生きていることは、氷の棺の中から漏れ出る小宇宙でわかった。
が、それはひどく弱々しい。
瞬は、氷河の思いやり(?)に対する感謝と、兄の身を気遣う焦慮との相克の中で、自分が何をすればいいのかがわからず、ただ呆然としていた。

「氷河……は、こんなふうに無理矢理 側におくより、家族は遠くにいても元気にしててくれる方がずっといいんだってことを僕に教えようとしてくれたんだと思う……」
そう呟く瞬の声は震えていた。
瞬の仲間たちには、瞬が、氷河のプレゼントを必死に好意的に受け取ろうと努めていることが、痛いほど明瞭に見てとれたのである。

「瞬。無理をするな」
紫龍は同情心に満ち満ちた声と表情でそう言い、瞬を力づけるように、その肩に手を置いた。
とはいえ、十字架上のイエスに見立てようとしても、一輝のこのとてつもない憤怒の表情は、クリスマス・パーティのオーナメントとしては最悪の代物である。

一輝のことであるから、これしきのことで死ぬことはないだろう。
その点に関しては、星矢も紫龍も、氷河がそうである程度には一輝を信頼していた。
紫龍は、兄の身を思う瞬のために、一輝を氷の棺から出してやりたいと思ったのだが、あいにくここにはライブラのソードもない。
そして、灼熱の炎すら凍りつかせる氷河の傍迷惑な愛の小宇宙には、たとえ瞬といえど──今の瞬は特に──抗し得るものではなかったのである。






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