「明日が恐ろしいことになりそうだな」
睨み合う二人を眺めながら、星矢と紫龍は、その場で明日の終日の外出を決意していた。

奇しくもインド初代首相ネールは言った。
『愛は平和ではない。愛は戦いである。武器の代わりが誠実であるだけで、それは地上における最も激しい、最も厳しい、自らを捨ててかからねばならない戦いなのだ』
──と。
そんな激しい闘いに、関わり合わずに済むのなら、二人はそれを避けたかったのである。

「今のうちに楽しんでおいた方が利口だな。瞬、来いよ! ケーキ分けるぞー」
「うん!」
星矢に呼ばれた瞬が、兄の手を引いて、ホワイトクリスマスの会場に戻ろうとする。
一輝と瞬の兄弟の姿を見ていたくなかったのか、その時には氷河はもう室内に戻ってしまっていた。

「沙織さん、お見事でした。外は寒いでしょう。早くあがってきてください」
「今行くわ」
ひと仕事終えたアテナは、聖母マリアというよりは、紅海を二つに割るという大仕事をしてのけたモーセのごとき貫禄を漂わせて、彼女の子供たちに微笑み返した。

氷の棺の成れの果ての水蒸気が外気に冷やされて、城戸邸の庭で雪のように舞い散り始め、折り良くパーティ会場のBGMは『ホワイトクリスマス』に変わる。

『ここにいるのはみんな、おまえの家族だぞ』
数日前には切ない思いを抱かずには聞けなかったその歌を、瞬は、今は、明るい気持ちで口ずさむことができた。






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