こんなことがあっていいのだろうか。 もしかしたら、地球は新しい年を迎える前に破滅してしまうのではないだろうか。 空前にして絶後の異常事態に直面した星矢と紫龍は、そんなことまで考えたのである。 「俺たちには氷河を説得できなかった……。瞬、いったい氷河に何があったんだ? あれはもう、俺たちの知ってる氷河じゃないぞ。あんなに好きだったもんを、こんなに急に嫌いになるなんて……」 ほとんど地球滅亡の宣告を為す気分で、星矢は自分たちの不首尾を瞬に告げたのだが、その報告を聞いても、瞬はさほど落胆した様子は見せなかった。 彼は最初から星矢たちの説得にあまり期待はしていなかったのかもしれない。 代わりに瞬は、僅かに首を右に傾けた。 「? 好き……って、星矢は、氷河が食べてるとこ見たことあるの?」 「なななな何言ってんだよ! 俺は覗きなんてしたことねーぞ!」 「そうだよねぇ……」 瞬が、今度はがっかりしたように頷いて、溜め息を一つつく。 それから瞬はしみじみと、そして さめざめと、氷河の頑固を嘆き始めた。 「僕はこんなに大好きなのに、どうして氷河はあんなに頑なに拒むんだろう……」 氷河の意固地の訳はまるでわからなかったが、瞬の嘆きは、星矢たちにも理解できるものだった。 氷河のこれまでの『やりたい やる やる時 やります やれば やろう』はいったい何だったのだろうと、彼等はこの現状を不審に思わざるを得なかったのである。 「泣くなよ、瞬。きっと氷河の奴、何か悪いものでも食って、その毒が脳にまわったんだ。それでその気が失せちまったんだよ。こんなこと普通じゃありえない」 星矢はもう、そんな理由しか思いつかなかった。 星矢のその言葉を受けて、瞬が、心配そうな目を星矢に向けてくる。 「病院に連れていった方がいいのかな……」 「そ……それは……」 それは、男として、かなりの屈辱的行為なのではないだろうか。 瞬の、当然といえば当然の提案に、星矢は即座に頷くことができなかった。 無論、Erectile Dysfunction──すなわち、勃起不全症──は歴とした病気である。 しかし、氷河が本当にそんな病気に罹ることがありえるのだろうか。 氷河の病気といえば、性交過多からくる腎虚くらいしか心配したことがなかった星矢たちには──それも冗談でしか心配したことはない──どうにも、この事態が信じられなかった。 そんなふうに戸惑っている星矢たちの前で、瞬が再び深い溜め息をつく。 「僕は大好きなの。あんこも好き。きなこも好き。海苔と砂糖醤油で磯辺焼きにして食べるのも好き。もちろん、お雑煮だって、お澄ましから白味噌仕立てに赤味噌仕立て、出汁もお魚のから、鶏肉のから、昆布のから、何でも好きなんだ。あれは、日本人の心そのものだよ。なのに、氷河はそれを嫌いだったていうんだ……」 「へ?」 瞬が何を言っているのか、もちろん、星矢と紫龍にはわからなかった。 |