「今年こそ優勝しなければ、水と氷の魔術師と呼ばれている私の立場がない」
「それで」
吐き出すように、氷河は彼の師に問うた。
彼の内には、師への尊敬の念は既に毫ほどにも存在していなかった。

「私はこの1年間、ずっと考えていたんだ。どうすれば十二宮対抗隠し芸大会に勝利することができるのか。悩んで悩んで悩み抜いていたところで、昨年の大晦日にコーハクウタガッセンを見た」
つまり、カミュは、昨年新春の十二宮対抗隠し芸大会から大晦日までのほぼ1年間を、無為無策のままに過ごしていたということである。
氷河の怒りと苛立ちは、そろそろ沸点に到達しかけていた。

「だから !? 」
氷河は聞きたくなかった。
聞きたくはなかったのだが、聞かないことには話が進まない。

「これで行くしかないと思ったのだ」
そう言いながら、カミュはまた、とんでもない光を放つ着物を、氷河の鼻の先でばさばさと煽ってみせた。

「…………」
これはどう考えても、機先を制しておいた方がいい。
カミュに、その言葉を言わせてはならないと、ごく平凡な聖闘士であるところの氷河は思った。
「言っておくが、俺は、マチュケンサンバなんてものは見たこともないからな。振り付けを覚えたいのなら、コーハクのビデオを見るなり、その俳優の舞台を見に行くなりすればいい。俺には何の協力もできない」

氷河の断固とした協力拒否宣言を聞いても、カミュは機嫌を損ねた様子を見せなかった(いずれにしても、目をつぶったままの氷河には、彼がどういう態度を示そうと、それを見ることはできなかったのだが)。
カミュは、彼の弟子に、不機嫌や怒りの代わりに、怪訝そうな問いかけを投げてよこしただけだった。
「おまえは何を言っているのだ?」

「何を……って、そのマチュケンサンバを踊って隠し芸大会で優勝するために、俺に協力しろというんだろう?」
そうではないのかと、氷河は訝った。
だが、そうではなかった──らしい。
カミュは、実にあっさりと、“そうではないこと”を氷河に言ってのけてくれた。

「私がこんな恥ずかしいキモノを着れるか。十二宮対抗だと言ったろう。おまえは宝瓶宮ファミリーの一員だ。しかもダンスの名手。これを着て黄金聖闘士たちの前でマチュケンサンバを踊るのは、もちろん おまえだ」

──そうではなかったのだ。






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