「氷河、大丈夫?」
氷河が目を開けると、そこには、瞬の大きな瞳があった。
氷河の目には、この世に二つきりしかない宝石にも思える瞬の瞳。
その瞳が心配そうに、突然倒れてしまった仲間の顔を覗き込んでいる。

氷河は自室のベッドに横になっていた。
自分をここまで運んでくれたのが誰なのかということを、ぼんやりと考え始めた氷河は、すぐにその考えを中断した。
それが瞬なら情けないし、瞬以外の誰かなら嬉しくない。

「なんだか、すごくうなされてたけど……」
「そ……そうか……?」
氷河は慌てて素知らぬ表情を作った。
自分がうなされていた訳を、瞬に気付かれないために。
とはいえ、実際のところ氷河は、悪夢や苦痛にうなされていたのではなかったのだが。

たった今まで、氷河は、彼の夢の中で、キンキラキンの着物の下で悩ましげに喘ぐ瞬を組み敷いていた。
氷河の悪夢(正しくは淫夢)は、『俺の弟子になりたいのなら、まずその身体を俺に差し出せ』と言われた瞬が、地上の平和のために我と我が身を氷河の前に横たえる──という、陳腐極まりないものだった。
そして、その陳腐かつ卑怯な夢の中で、瞬の白い裸身は、キンキラキンの金ラメ衣装よりも眩しかった。

目も眩むような思いで、氷河はその身体に触れ、愛撫し、そして、押し開いたのである。
いくらでもどうとでも自分に都合良くストーリーを展開させることができるはずの氷河の夢の中で、氷河に身体を貫かれた瞬は、我が身が汚されたことを悲しみ、その頬を涙で濡らしていた──。

(い……いかん……!)
先刻までの悪夢(正しくは淫夢)の映像を思い出してしまった氷河が、慌てて大きく左右に頭を振り、瞬の裸体を脳内スクリーンから消し去る。
このままだと氷河は本当に、瞬への卑怯下劣な行為に及んでしまいそうだった。

しかし、そんなことができるものだろうか。
否、そんなことだけはしてはならない。
そのために、氷河はとにかく、瞬から、マチュケン聖闘士に弟子入りしたいなどという馬鹿な夢を奪い取ってしまわなければならなかった。

氷河は、瞬の前でだけは卑怯者でありたくなかったのだ。






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