選ばれてあることの恍惚と不安






「おまえが好きだ」
と言われてすぐに、
「ぼくも」
と返すことができなかった。

なぜなのかは、瞬自身にもわからない。
同性同士だということが引っかかっていたせいもあるかもしれない。
地上の平和と安寧を守ることが至上義務のアテナの聖闘士が 色恋などにかまけていていいのだろうかと思う気持ちもないわけではなかっただろう。

だが、そんなことよりも──そんなことに一切頓着していないらしい氷河のまっすぐな眼差しに、瞬は、その時ほんの一瞬間だけ気後れしたのだ。
それが、瞬が氷河への答えをためらった本当の理由だった。

彼のようにまっすぐに、自分は彼を見詰め返すことができるのだろうかという不安。
その不安──自分を信じられない気持ち──が、氷河の腕の中に飛び込んでいくことを、瞬にためらわせたのだ。

無言で俯いてしまった瞬に、氷河は、
「言ったぞ」
とだけ告げて、瞬の前から立ち去った。






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