「ちゃんと答えとかないと、氷河だって、いつまでもおまえ一筋じゃいないかもしれないぞ。おまえが先延ばししているうちに、氷河の諦め気分が大きくなってって、おまえに振られた時の用意に取りかかり始めるかもしれないし」
「用意……って?」
「おまえの次を探し始めるってこと」

星矢が意地悪でそんなことを言っているわけではないことを、瞬は承知していた。
星矢はむしろ、彼の二人の仲間をくっつけたがっているのだ。
なのに一向にまとまる気配のない二人に、星矢は焦れている。

「どうして?」
瞬は一度、星矢に訊いたことがあった。
どうして、星矢はそれを望むのかと。
「だって、おまえ、氷河を好きだろ。氷河もおまえを好きなんだし、くっつくのが自然じゃん」
──というのが、星矢の答え。
他には何の問題も障害もないような顔をして、星矢はあっさり断言してくれた──。


「ともかく、あんまり油断してると、しっぺ返しを食うぞ。氷河は見てくれだけはいいし、それで十分と考える女の子・・・は世間には五万といるんだからな」
まるで挑発するように、星矢が言い募る。
瞬は、仲間の忠告を一笑に付した。

「次の用意なんて、氷河はそんなことしないよ」
「おまえ、意外と自信家なのな」
「そんなんじゃないよ。ただ、氷河って面倒くさがりやだから、一つのことに目が行ってたら、他のことは目に入らないんだよ」

言ってしまってから、今の氷河の『一つのこと』が自分なのだという疑いようのない事実を、今更ながらに認識して、自分はやはりうぬぼれているのだろうかと、自身に問う。
氷河のそんな気性を利用して、自分は彼に恋されてる人間の気分を楽しんでいるのだろうか──と。

だが、そんな自信やうぬぼれ以前に、どう考えても、あの氷河が、一つのことが終わっていないのに次の用意に取り掛かるなどということがあり得るとは、瞬には思えなかった。
二つのことを同時進行させるなどという器用なことが、氷河にできるわけがない。
そういう結論に落ち着いて、瞬は小さく安堵の息を洩らした。

そんな瞬の様子を盗み見るような目つきで、星矢は挑発を繰り返す。
「面倒くさがりでも、したいもんはしたいだろーし、俺等はいわゆる やりたい盛りのお年頃だし」
「やりたい……って、な……何のこと」
星矢がどういう種類のことを言っているのか、全くわからないわけではなかったが、瞬はあえて問い返した。
「さて何のことだかなぁ」
あまり上品には見えない意味ありげな薄笑いを浮かべた星矢が、わざとらしく視線を脇に流す。

(やりたい……って、どうやってするんだろう……?)
瞬は実は、そのあたりがよくわかっていなかった。
何となく想像はできる──のである。瞬にも。
が、まさかその想像が正解なのか誤答なのかを、他人に聞いて確かめるわけにもいかない。

瞬は、多分その時がきたら氷河が教えてくれるだろうと、安易に考えていた。
氷河に、「僕も」と答えたわけでもないのに。
瞬はやはり うぬぼれていた──あるいは、油断していた──のだ。






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