その日、瞬が氷河を見かけたのは、城戸邸の最寄り駅から4駅ほど離れた街にある、その界隈ではかなり大型の書店だった。 おそらく仲間の誰を誘っても喜んで付き合ってくれそうにない──氷河なら、別の意味で喜び付き合ってくれたのかもしれなかったが──アールヌーヴォー・ガラス工芸展に赴いた帰途に、ふと気が向いて、瞬はその書店に立ち寄ったのである。 書店のガラス張りの自動ドアのすぐ横にレジがあり、氷河はそのカウンターの前に立っていた。 既に買い物を済ませたあとらしく、2、3冊の雑誌の代金を支払っている──ようだった。 そして、彼は、すぐ横に瞬がいることに気付いた様子もなく、足早に店を出ていってしまった。 脇目を振らないその様子を、いかにも氷河らしいと苦笑して、瞬は彼を追いかけようとしたのである。 しかし、すぐに思いとどまった。 氷河がなぜ、こんな場所にある書店で雑誌を買う必要があるのかと、訝って。 本が欲しいのなら、城戸邸の使用人に頼めば、いつでも馴染みの書店経由で取り寄せてもらうことができる。 稀少本や絶版本の入手にも似たようなルートが確立していたので、必要な本を書店で探すことさえ面倒がる氷河は、普段は書籍の購入にはそのルートを利用することが多かった。 城戸邸から徒歩で行ける場所には、この書店より規模の大きい書店もあり、緊急に入手したい本はそちらの書店で買えばいい話である。 専門書の類ならともかく、ただの雑誌なら、品揃えはそちらの書店の方が充実しているはずなのだ。 |