星矢に告げられた事実について、瞬は気持ちを落ち着けて考えてみたのである。
言われてみれば、氷河はあの雑誌の購入者で、雑誌に掲載されたわけではない。
だとすれば、パートナーを求めてメールを出すのは氷河であって、氷河宛てにあれほど多くのメールが来るはずがないのだ。

「じゃあ、やおい町の本屋さんで、あの時氷河が買ってた本が──星矢が僕の写真を送った本だったってこと?」
あの雑誌は確かに、いつ顔見知りの者に出会うかもしれない馴染みの書店で買える類の代物ではない。
そう考えて納得しかけていた瞬に、だが、星矢は、またしても思いがけないことを話しだした。

「あー……おまえ、氷河があの本回収してたとこ、見ちまったのか」
「回収?」
「売れてない本の回収してたんだろ。3万部のうちの1万部くらいは回収したみたいだぜ。俺が氷河に白状させられたのが、発売日から4、5日あとくらいだったから、3分の1くらいは売れたあとだったみたいだけど。都内の大きな本屋は氷河が自分で出向いて回収して、地方の本屋とは電話で連絡とってるのかな。メールや手紙をよこした奴等には、倍値で買い取るって交渉してるらしい。回収したって、どうせシュレッダーにかけるだけの本にさぁ」

「回収……」
記憶の糸を辿ってみれば、氷河の姿をあの書店で見かけた時、氷河は確かに似たような雑誌を2、3冊購入していた。
では、氷河はあの時、あの本屋にあった同じ雑誌を全部買い占めていた──のだ。
瞬には手にとることもできないような本を、氷河は、おそらく瞬の名誉のために、連日必死になって掻き集めてくれていたのである。
そういえば、帰宅した氷河が直行する図書室には大型のシュレッダーが設えられている──。

氷河の、瞬には理解できずにいた行動の理由と目的を、瞬は今、やっと理解した。
そして、理解した途端に、瞬の瞳には涙が盛りあがってきてしまったのである。






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