「どうして、僕に言ってくれなかったのっ! 氷河にそんなこと言うより、僕に事情を説明するのが先でしょう!」
涙を拭って、瞬は星矢を面詰した。
星矢が、気まずそうな顔で、言い訳を始める。

「だって俺、おまえには絶対知らせるなって、氷河に脅されてたんだよ! 気持ち悪いだろ。氷河以外の男にそういう目で見られるの。そいつら、きっとおまえを夜のオカズにだって……んにゃにゃ」
「え……」

星矢が口ごもった言葉の意味するところを数秒かけて理解して、瞬はぞっとした。
『氷河以外の男にそういう目で見られるの』は、確かに星矢の言う通り、吐き気を覚えるほど『気持ち悪い』ことだった。
しかし、である。

「そ……それでも、僕に知らせるべきでしょう! 星矢がそうしてくれないから、僕……」
瞬の瞳を再び覆った涙は、自分の愚かさを悔やむ後悔の涙だった。
「僕、氷河にひどいこと言っちゃった……」

一度零れ落ちてしまうと、瞬の涙はもう止まらなかった。
できることなら時間を──せめて氷河の(本当は星矢の)携帯電話を盗み見る前に戻したい。
氷河に投げつけたあの言葉を、瞬は消し去ってしまいたかった。

「僕、もう、氷河に嫌われた……。僕、氷河のこと信じてないって宣言したようなものだし、きっと、氷河は僕のこと呆れて軽蔑してる……。こんな……人の思いやりにも気付かない馬鹿のことなんて、氷河はきっと……」
床に膝をついていた星矢の前にへたりこんで、瞬は顔を俯かせ、ぽろぽろと涙を涙を散らし始めた。

「な……泣くなよぉ……。何があったって、氷河がおまえを嫌いになったりするわけが──」
元はといえば、星矢がチョニーのPSPとニャンテンドーのニャンテンドーDSのセットに目が眩んでしまったせいなのである。
星矢は慌てて瞬を慰めかけた──時だった。
星矢と瞬のいるラウンジに続く廊下に氷河の怒鳴り声が響いたのは。

「わからないバイトだな! 返品になって戻ってきた先月号をすべて買い取ると言ってるんだ。編集長か営業の責任者を出せ! 売れてるから増刷? 阿呆! 買っているのはこの俺だ!」
氷河は本気で、あの雑誌を根こそぎ回収するつもりでいるらしい。
電話の相手は、あの雑誌の出版社の者のようだった。

「あの……氷河さん。沖縄のちんすこう書店から小包が届いてますが……」
「わかった。図書室に運んでおいてくれ」
まるで分刻みのスケジュールに追われている大企業のエグゼクティブである。
メイドの報告に苛立ちを隠さない口調で答えると、氷河は口をへの字に結び、不機嫌そうな顔をして、ラウンジに入ってきた。






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