「瞬……」
そこに瞬がいるとは、氷河は思っていなかったらしい。
ラウンジに不機嫌そうな顔で現れた氷河は、軽く舌打ちをしてから、努めて無表情を装おうとした──らしかった。

「氷河……!」
床にへたりこんでいた瞬は弾かれたように立ちあがり、氷河の側に駆け寄って、それこそ必死の表情で彼に訴えたのである。
「氷河、僕のためなら、もうやめて……。ううん、ごめんなさい。僕、氷河にひどいことを言いました」
「あ?」
「星矢に聞いたの、氷河が僕の写真が載ってる本を回収してるって──」

「星矢っ、この馬鹿!」
瞬にそう言われて初めて、氷河は、床に両膝をついている星矢の姿に気付いたらしい。
彼はまなじりを吊り上げて、彼に殴りかかろうとした。
瞬が、そんな氷河を押しとどめる。

「氷河、僕のためならもうやめて」
「…………」
瞬に止められてしまったら、氷河は止まるしかない。
彼は、星矢に向かって伸ばしかけていた手をおろし、それでも気が収まらない様子を残しつつ、瞬に向き直った。

「おまえのためにしてるわけじゃない。俺以外の男が、写真とはいえ、そういう目でおまえを見ているのかと思うと虫唾が走る。俺が我慢ならないから、集めて処分しているだけだ」
「氷河……」

それが、瞬にとっては『おまえのため』だった。
氷河が嫌なことは、瞬にとっても嫌なこと。
そう思ってしまえるほどに自分は氷河が好きだったのだと今頃になって気付く自分が、瞬は情けなく、そして、みじめだった。






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