大神ゼウスと、プレアデス7姉妹の一人マイアの子、ヘルメス。 オリュンポス12神の1柱にして、情報・泥棒・詐欺・虚言・商業・旅行の守護神。 彼は狡知狡猾の神である。 彼がアテナと彼女の聖闘士たちの打倒を試みようとしたことを、彼自身は、ただの気紛れだと思っていた。 彼は、地上もそこに住む人間も、神の威信や尊厳すらどうでもよく──大切なものを持たない神だったので。 ポセイドン、ハーデス、アルテミス、アポロン──ある見方をすれば、馬鹿正直に真正面からアテナに挑んでいく親族たちに、彼はずっとシニカルな視線を投げ続けていた。 彼は、真面目に生きる者が嫌いだった。 何事かに必死になっている者たちを軽蔑していた──彼にはそういう生き方ができなかったので。 神々には才知に長け機転のきく伝令神として重宝されていたが、彼自身には、華やかな神の栄光は無縁のものだった。 人間たちは知恵と戦いの女神を敬慕し、太陽神にひれ伏し、神々を統べる大神の力、海洋を司る神の力、死の世界を司る神の力を畏れる。 だが、ヘルメスは虚言と泥棒の神。 人々に崇め褒め称えられることも、敬われることもない。 真面目に生きるだけ無駄なのだ。 だから、彼は、 彼等が倒すことのできなかったアテナを倒すことで。 そして、アテナを倒すには、彼女の標榜する愛の分野で対抗するのが適切だと思った。 |