瞬たちは、一つの闘いを終えたばかりだった。 瞬は、やはり、傷付けたくない敵を倒した。 いつもの通りに瞬は、「あなたを傷付けたくないから、拳を引いてくれ」と相手に懇願し、相手は瞬の言うことをせせら笑った。 これまでに幾度も聞かされてきた『偽善者』という言葉を投げつけられ、瞬は、その言葉を甘んじて受け入れ、敵を倒した。 言われ慣れてはいた。 その言葉には既に耐性もできてしまっている。 ただ、その理想を叶えるための解決方法を見つけられない自分自身には苛立ちを禁じ得ない。 開き直って理想を捨て去ることもできない自分自身に、瞬は怒りさえ覚えていた。 闘いのあとにはいつもそうする通りに──そうなる通りに──沈み込んでいる瞬に、氷河もまた、いつもの通りの言葉を口にする。 「おまえはそれでいいんだ。俺は、ためらわずに敵を倒すおまえは見たくない」 氷河はそう言うが、いつまで経っても進歩のない闘い方をする仲間に、彼は内心では呆れているのではないかと、瞬は思わないでもなかった。 ただ、彼は、煮え切らないアンドロメダ座の聖闘士を愛しているから、仲間の偽善と愚かさを許してくれているだけなのではないかと。 そう考えて、瞬は、みじめな気持ちになった。 「なんだぁー?」 そんなことを考えて沈んでいた瞬の耳に、ふいに星矢の素頓狂な声が飛び込んでくる。 「神々の中から、ついに人間に味方する者が出てきたのか?」 紫龍も、星矢と同じものを見て、軽少でない驚きを覚えたらしい。 瞬は、慌てて顔をあげた。 沙織の招集命令を受けて青銅聖闘士たちが集まっていたのは、城戸邸の一画にあるオーディオルーム。 沙織がスクリーンに映して見せた映像は、今日の午後にテレビのワイドショーで放映されたものだという話だった。 スクリーンの中では、アテナの聖闘士ではない戦闘員たちが、尋常の人間に持てるものとは思えないスピードと力を有した拳を闘わせている。 そして、アテナは浮かない顔をしていた。 |