その日から毎日、日本のワイドショー番組の話題は、常人のものではない力を見せつける闘いを闘い続ける者たちのパフォーマンスに、ほぼ独占されることになった。

「私は大神ゼウスの子ヘルメス。地上の平和のために、人類にあだなす邪神の手先共を倒すべく、人間界に降臨したのだ」
などと、今時 勧善懲悪アニメの主人公でも言わないようなセリフを、芸能記者の差し出すマイクに向かって大上段に語る神の姿に、アテナの聖闘士たちは呆れ果ててしまったのである。

神の生まれ変わり──などという、たとえ事実だとしても、一歩間違えば狂人扱いされかねない主張を堂々と公言する神の気が知れない──というのが、アテナの聖闘士たちの正直な感想だった。
本来は派手なパフォーマンスがそう嫌いなわけではない沙織でさえ、自らの出自を知った後はマスメディアに姿をさらすことを極力避けている。
当然、アテナの聖闘士たちの闘いは、一般人には知られぬ場所で秘密裏に行なわれていたのである。

それをいいことに、泥棒神ヘルメスは、公にはただの天変地異とされていたポセイドンやハーデスの仕業を、人類の殲滅を試みる神の引き起こしたものと暴露し、その上、それらの神々の野望を打破したのも自分だと取れるような発言を発し始めた。

一般常識を友として生きている良識的な市民たちには、荒唐無稽を極めた話である。
彼等がヘルメスの言をどこまで信じたのかは、アテナの聖闘士たちにはわからなかった。
それらの天変地異が科学的にありえないことと証明することは無理でも、人々に それを不自然な事象と思わせることは容易なことだったろう。
なにしろ、それは事実なのだから。
ただ、神々の怒りから人間界を守り抜いた者は自分だとヘルメスは主張し、そこだけが事実と違っていた。

──信じない者は多かったろう。
信じる者もいたかもしれない。
彼が人々に神と思われたか狂人と認定されたかは別として、ヘルメスの登場は、ちょうどワイドショーのネタに事欠いていたマスメディアと大衆に非常に面白がられ、各方面で大々的に取り上げられることにはなった。
青年神ヘルメスの外見が、へたなハリウッド俳優顔負けなほどに端正だったせいもあるだろう。特に女性陣が色めき立つ様は異常なほどだった。

自らを神だと名乗るその男が、実は狂人でも大衆は構わなかったし、彼等がそう考えていることは、ヘルメスも承知している──ようだった。
彼は偽りと情報操作の神、真実などどうでもよかったのだろう。






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