氷河は星矢を好きだった。
もちろん、瞬の『好き』とは全く違う意味合いの『好き』だが、これほどまでに単純明快な『好き』があるだろうかと思えるような好意を、氷河は星矢に抱いていた。

明朗快活で裏表なく、努力という行為を根性という言葉に置き換え、いつも嫌味なく必死で一途。
無鉄砲なところがないでもないが、どんな苦難に出会っても決して勝利を諦めることをしない星矢の姿勢に励まされたことも一度や二度ではない。
太陽のように──星矢は、根本的に陽性の気質の持ち主なのだ。

瞬が星矢に惹かれる気持ちはわかりすぎるほどにわかるのである。
だが、それが恋である必要がどこにあるだろう。
否、むしろ恋である方がおかしいと、氷河は思った。

野に咲く花はすべて、太陽の光を必要としている。
だが、その花々が太陽に恋をすることはない。
身の程をわきまえない気違いひまわりならともかく、瞬は、ことさら自分の存在を誇らないスミレの花ではないか。
スミレの花が恋すべき相手は太陽ではなく──だが、太陽でないなら、それはいったい何ものなのだろう?

それが自分ではないということだけが、今の氷河にわかる唯一のことだった。






【next】