春が近い冬の夜空から、雪がきらきらときらめきながら落ちてくる。
その中に、瞬はいた。
東京では珍しく湿気を含まない粉雪──それも遠慮がちに舞い散る細雪ささめゆき──が、城戸邸の夜の庭に笑い声のような光を舞い散らしていた。

「雪……今年の最後の雪かな。お星様みたい」
そのきらめきの源を探すように夜空に顔を向け、瞬は小さく呟いた。

悲しいとか、つらいとか、そういう感情よりも、星矢に迷惑をかけたことへの申し訳なさが先に立つ。
ただの仲間のままでいれば、星矢にあんなことを言わせずに済んだのだ。
苦くつらい後悔が、瞬を責め苛んでいた。

氷河に自分の気持ちを知らせてしまったことが、そもそも間違いだったのだろう──と思う。
今になってみると、なぜ氷河に──いつも突き放すような目で自分を見ている氷河に──あんなことを告げてしまったのか、瞬には、あの時の自分自身の考えがまるでわからなかった。

きらめく雪は美しいが、それは決して暖かくはない。
雪と夜の冷気に満ちた庭に為す術もなく立ち尽くしているうちに、瞬の身体は芯から冷えてきた。

「瞬」
30分もそうしていただろうか。
瞬と同じだけ雪で肩を濡らした氷河が、瞬と同じだけ凍えたような目をして、瞬の名を呼んだ。
おそらく、瞬が自主的に邸内に戻るのを期待して、彼は瞬と同じ雪の中でずっと傷心の仲間の横顔を見詰めていたものらしい。
瞬の心と身体が限界に近付いていることを見切り、見兼ねて、声をかけてきた──という風情だった。

「中に入れ。凍え死にたいのか」
「このまま、ここにずっと立ってたら死ねるのかな。死んじゃおうかな」
そう言ってしまってから、そう言ってしまった自分自身に、瞬は驚いた。
それは、普段の瞬であれば、決して口にしないはずの言葉だったので。






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