「氷河、僕たちは生きてるんだから、そんな話はもう……」 「そうだな」 氷河の手が、もう一度僕を彼の受容体にするための動きを始める。 「自分が死ななかったことが不思議だったから、つい」 氷河の指は、僕の性器に絡み、内腿を撫で──なのに、そんなことをしているくせに、氷河の表情は冷静そのもの。 僕は、氷河の指のいたずらと彼の真顔のギャップに笑いながら、彼に告げた。 「氷河がもし本当は死んでいて吸血鬼になって蘇ってきたのだとしても、僕は氷河を受け入れるよ。死の国に追い返したりしない。帰ってきてくれたことを喜ぶ」 「──ありがとう」 「どうしたの。今夜は妙にしおらしいね」 「たまには、こういうこともある」 氷河はそう言って初めて、その彫像みたいに整った顔を少し歪ませ、唇だけで微笑のようなものを作った。 吸血鬼が性的なシンボルとして捉えられることが多い理由がわかるような気がする。 シンメトリーな氷河の面差しの、ほんの少しの歪み。 ただそれだけの変化が、氷河という存在をひどく官能的に見せる。 僕は、吸血鬼に魅入られた犠牲者さながらに陶然とし、彼に僕自身を委ねるしかなくなるんだ。 そして、僕は、氷河のせいで、氷河のためのものになってしまった身体を身悶えさせながら、氷河にせがむ。 早く、氷河のそれで僕を殺して、と。 それだけが僕の望みだから、と。 ──そんなふうに、同じ夜と昼を過ごせる相手は、なんて命というものを充実させてくれるものだろう。 九死に一生を得て地上への帰還を果たした僕たちの闘いはそれでも終わらなかったけど、戦場から生きて帰ることさえできれば、僕はまた氷河と二人だけの時間を過ごせる。 抱きしめ合って安らかに眠ることができるんだ。 そして、その思いは、僕の心と身体と意思とを、絶対的に生へと向かわせる。 一度死に瀕したからじゃなく、氷河のせいで──何があっても生き延びたいという僕の気持ちは、日を追うごとに、氷河と同じ夜を重ねるたびに、強くなっていった。 |