氷河がいない世界に僕が生きて存在する意味はあるんだろうか。
氷河の死後、そんなことを考え始めた自分が、本音を言うと僕はとても不思議だった。
僕はそんなことを考える人間じゃないと思っていたから。

僕は氷河のためだけに生きているわけじゃない。
僕には仲間がいる。
一人の人間として、アテナの聖闘士として、しなければならないこともたくさんある。
闘いだって続いている。

それがわかっているから、自分は何があっても柔軟にしたたかに生き続けるのだろうと、僕は思っていた──避けられない死に向かい合ったその時には、逍遥として死すべき運命を受け入れるにしても、と。

今の僕は、少なくとも肉体的には、生き続けることへの障害を負ってはいない。
生きることの目的だって持っている。
なのに、なぜだろう。
僕の中には生きる気力が湧いてこない。

人を生に執着させるものはいったい何なんだろうね?
死への恐怖、生の希望、今現在の幸福と生きていれば得られるかもしれない未来の幸福、友だちや家族、残される人たちの嘆きを思うこと。
その全てが失われたわけではないのに、そして僕は決して氷河に依存して生きていたわけではなかったはずなのに──僕は、氷河の死後、積極的に生きていたいと思うことができなくなってしまった。

本当に僕は、そんな自分が不思議でならなかった。






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