翌朝。 星矢はまず、ダイニングルームに入ってきた氷河の周囲に 瞬の姿を探した。 その姿が氷河の周囲にないことを確認すると、『おはよう』も省略して、氷河の昨夜の首尾の査問にとりかかる。 「どうだった?」 朝食よりも、今の星矢は、氷河の下半身近辺の問題に興味津々でいるようだった。 ――が。 「…………」 問われた氷河の顔色は冴えない。 どうみても昨夜の首尾は上々とは言えないものだったらしい。 「プライドに負けたか」 珍しく烏龍茶ではなくコーヒーをすすっていた紫龍が、カップをソーサーに戻しながら、横目で仲間の浮かない顔を見る。 「違う」 氷河は、紫龍の言は即座に否定した。 昨夜、氷河は、己れのプライドには見事に打ち勝ったのである。 そんなものより瞬の身体の方が大事なことは、氷河とて十分すぎるほどにわかっていた。 だから、氷河は、きっぱりと、 『今夜はやめておこう』 と瞬に告げたのだ。 だが――。 氷河にそう言われた途端、瞬は、それでなくても青ざめていた頬から更に血の気を消し去った。 そして、氷河の前で、 『氷河、僕が嫌いになったの』 とさめざめと泣き出してしまったのである。 無論、氷河は慌てて慰めにかかった。 かかったのだが。 「それがまた凶悪に可愛いんだ。こう、ぺたんとベッドに座り込んで、あの大きな目が涙で潤んでて、腕が力なく脇に投げ出されてて――」 「それで?」 「それで、慰めがてら、つい朝まで――」 「 氷河の言葉をそのまま反復して、星矢が巣頓狂な声をあげる。 呆れ果てるを通り越した星矢の大声には、侮蔑の響きが込められていた。 氷河が、さすがにムッとなる。 「おまえも一度、瞬に目の前であんなふうに泣かれてみろ! あれにはおまえの流星拳100発分の威力があるんだ……!」 しかも、ここのところ氷河はそれを毎晩食らっているのだ。 食らったことのない者にこの苦渋がわかるかと、言外に訴える氷河の声は悲痛の極みである。 星矢は、さすがに、幸運なのか不運なのかわからないこの仲間に少しばかりの同情心を抱き、それ以上の罵倒を控えることにした。 「あー……あれだな。おまえの訓育のせいで、瞬は淫乱の血に目覚めてしまったんだろう」 代わって、横から口を挟んできたのは紫龍である。 氷河は、勝手なことをほざくもう一人の仲間を怒鳴りつけようとして――結局、そうすることをやめた。 己れのプライドよりも、無責任な推察を垂れ流す仲間を糾弾することよりも、今問題なのは、瞬の身体、そして瞬の心だった。 「それなら、俺は責任をとっていくらでも励む。そうじゃないんだ。瞬はまるで――」 氷河にそれをねだる瞬は、本心からそれを欲しているようには見えないのだ。 決してそれを嫌がっているのではない。 愛撫にはいっそ見事なほどに反応するし、性的にも達している――と思う。 氷河はそのために瞬を愛撫しているのだし、瞬の肉体が快感を得ていることは間違いない。 だが、瞬はおそらく満足していない――のだ。 瞬は、何かが足りないと感じている。 その満ち足りない何かを満たそうとして――あるいは忘れようとして――瞬は、必死に氷河にそれをせがみ続けている――。 氷河には、そうとしか思えなかった。 |