瞬が仲間たちの出立に気付いたのは、城戸邸の裏庭で響き始めたジェットヘリのエンジン音のせいではなく、星矢の高揚した小宇宙に感応したせいでもなく――氷河の小宇宙が遠ざかる気配を敏感に察知したからだった。

「氷河……?」
いったい何が起きたのかと訝って、ほとんど倒れ込むように身を沈めていた籐椅子から腰を浮かしかける。

そこに現れたのは、今度は保険医の顔をした女神アテナで、彼女は冷酷に――瞬にはそう感じられた――瞬に命じた。
「あなたは残ってなさい。星矢たちと一緒に行っても、あなたは戦力にならないから」

アテナの戦力外通告に、瞬は全身の血の気が引く思いがした。
あれほど恐れていたことが――聖闘士として、氷河の横に立っていられなくなる事態が――こんなにも早く実現してしまうことを、瞬は考えてもいなかったのである。

「敵が現れたんですか? ぼ……僕も行きます……!」
「いいから無理はしないで。瞬、あなたが行っても、どうせ星矢たちの足手まといになるだけよ」
沙織は、弱っている彼女の聖闘士への気遣いから、そんな残酷なことを言っているのだろうか――?
沙織の、おそらくは正しい判断に、だが瞬は今は従うわけにはいかなかった。

「僕も行く……!」
瞬は、制止する沙織の手を振り払った。
そして、部屋の隅に置かれていたアンドロメダ座の聖衣が収納された聖衣ボックスのショルダーストラップを掴むと、城戸邸の裏庭にあるヘリポートに向かって駆け出した。






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