シュンが思った通り、洞窟の入口から10メートルも奥に入ると、そこにはもう雪はありませんでした。
洞窟の壁の岩肌は、宝石でも埋め込まれているようにきらきらしていて、真っ暗闇でもありません。

「わあ、洞窟の中でお星様が光ってるみたい」
きらきら光る岩の壁があんまり綺麗なので、シュンは歓声をあげ、恐い気持ちも忘れて、誘われるように奥へ奥へと歩いて行きました。

星空のような通路を、シュンの足で10分ほど歩き続けたでしょうか。
突然洞窟の天井が高くなり、シュンの目の前に広々とした空間が開けます。
星たちは姿を消し、そこは、真昼のお陽様が照っているように明るい空間。
シュンが暮らしている古い教会の礼拝堂を10個集めたくらいの広場でした。

そして、その広場の中央に、水晶のように輝く四角い柱。
その柱の中には、なんて不思議。
シュンより少し年上くらいの、金色の髪をした、とても綺麗な顔立ちの男の子が閉じ込められていたのです。
男の子の目は閉じられていましたが、きっとこの不思議な男の子の瞳は晴れた冬の空のように真っ青に違いないと、シュンは思いました。

シュンはまるでその男の子に呼ばれているような気がして、恐さも忘れ、その透き通った柱の側に近寄っていきました。
恐る恐る触ってみて シュンは気付いたのですが、シュンが水晶のようだと思った柱は信じられないくらい透き通った氷でできていました。
綺麗で冷たい氷の中に、男の子が閉じ込められているのです。

「これは魔法をかけられた王子様かしら?」
金色の髪の男の子は、王子様にしては、宝石のついた冠もつけていませんでしたし、大抵の王子様が穿いているはずのかぼちゃぱんつも穿いていませんでした。
北の国の普通の男の子が身に着ける白くて長めのルパーシカと、黒いズボンを身に着けているだけ。

でも、こんな不思議な氷の柱に閉じ込められている男の子ですからね。
格好は普通でも、王子様に違いありません。
シュンはそう思って、うっとりと、普通の服を着た王子様の姿に見入っていたのです。
固く閉じられたその瞼を開けて、僕を見てくれたらいいのに――と願いながら。






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