それから、半年ごとに1時間だけのヒョウガとシュンの逢瀬は始まったのです。
やがて、シュンは可愛らしい少年に、ヒョウガはたくましい青年に成長しました。
あの氷の棺の中で、なぜかヒョウガはシュンよりずっと発育がよかったのです。

お城のお姫様の福祉制度の見直しのおかげで多少の改善が為されたとはいえ、シュンは相変わらず貧しい生活を続けていましたし、毎日パンが食べられるわけでもありません。
シュンは、自分が同じ年頃の者たちより多分に小柄で細いのは仕方がないと諦めていましたが、ずっと氷の棺の中に閉じ込められているヒョウガは、シュンより栄養が摂れていないはず。
不思議に思ったシュンがヒョウガに尋ねてみますと、ヒョウガはそれはカミュの氷の棺のせいだと教えてくれました。

なんでも、カミュの作った氷の棺は、万能の人間育成機械のようなもので、人間の成長に必要な栄養分の供給から、肉体鍛錬のために筋肉に負荷を加えることまでしてのける魔法のマシンなのだそうでした。
その上ヒョウガは、睡眠学習とやらで、氷の棺の中で強制的にいろんな勉強をさせられているというのです。
おとぎ話じゃなく、まるでSFですね。


ともあれ、そんな出会いと別れを20回。
ヒョウガとシュンが初めて出会ってから10年目のある夏の日のこと。

それまでシュンは、ヒョウガと出会うたびに、この半年の間にあったことを話して、1時間という短い時間を過ごしてきました。
ですからその年の夏も、シュンはこれまでそうしていた通り、半年前にヒョウガとさよならしてからのことを話し始めようとしたのです。
けれど、その年の夏はこれまでと違っていました。
ヒョウガがふいに、
「黙って」
と、シュンに言ったのです。

シュンが言われた通りにしますと、ヒョウガはシュンをじっと見詰め、恐いくらい真剣な目をして、シュンに、
「好きだ」
と告げました。

それが、これまで幾度もヒョウガに言われ、シュンも言ってきた『好き』とは違う『好き』だということが、シュンにはすぐにわかりました。
初めてヒョウガに出会った時のように、シュンの胸がどきどきと高鳴ります。

「でも、僕は──」
シュンが、自分は男の子だと言う前に、ヒョウガはもう一度その言葉を繰り返しました。
「好きだ」

シュンはもう、それだけで身も心も溶けてしまうような気持ちになってしまったのです。
ヒョウガの青い瞳に見詰められて身動きもできなくなったシュンにできたのは、
「僕も、ヒョウガが好き」
と、掠れた声で答えることだけでした。

シュンの答えを聞いたヒョウガの手がシュンを抱きしめ、ヒョウガの唇がシュンの唇に重なってきます。
うっとりしているシュンの身体を、ヒョウガは抱きしめたまま、水晶の床に横たわらせ、そしてヒョウガは彼自身の身体でシュンの自由を奪おうとしました。 
「あ……っ」
シュンは反射的に身をよじって、ヒョウガの愛撫から逃げようとしたのですが、ヒョウガはシュンにそれを許しませんでした。

「次に会えるのは半年後だ。そんなに待てない」
耳許でヒョウガにそう囁かれ、もともとないようなものだったシュンの抵抗の意思は、すぐに消え去ってしまったのです。

カミュ先生の睡眠学習のカリキュラムがほもの性教育にまで及んでいたのかどうかは、シュンには知りようもありませんでしたが、
「あ……んっ」
ともあれ、出会って10年目の夏、ヒョウガとシュンはそういう仲になってしまったのでした。






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