「あのね、ヒョウガ。ずっと南の国の島に、ありとあらゆるものを温める魔法を使える魔法使いがいるんだって。僕、その魔法使いに弟子入りしようと思うんだ」

シュンとヒョウガが大人の恋人同士になって半年後。
初めての時よりちょっと大胆なえっちを済ませたばかりのヒョウガに、シュンは思い切って自分の決意を告白しました。
それは実は、もう数年前から考えていたことだったのですが、シュンはずっとヒョウガに言えずにいたのです。
けれど、半年前の出来事が、シュンにその決意をさせたのでした。

「危ないことはやめておけ」
裸のシュンの肩口に唇を押しつけながら、ヒョウガはシュンに言いました。
「でも、今のままじゃ僕、いつまで経っても、半年にいっぺんしかヒョウガに会えない……」

シュンは、それがつらかったのです。
特にこの半年間は、幾度も幾度もヒョウガに抱きしめられる夢を見て、そのたびにシュンは気が狂いそうになっていました。
氷の棺の中にいるヒョウガはそんな苦しみは味わわずに済むのかもしれませんが、自由に行動することを許されているシュンは、その自由に苦しめられ続けていたのです。
でなかったらシュンは、半年振りに出会えたヒョウガに、『もっとして』なんてハシタナイことを言ったりはしませんでした。

「……そこはどういうところだ。人が大勢いるのか。シュンは可愛いから、オオカミ共がたくさんいるところには絶対行かせないぞ」
シュンの苦しみは、ヒョウガもわかっているようでした。
シュンの求めに応じて、シュンの身体を煽るための愛撫を加えながら、ヒョウガが尋ねてきます。

シュンは、ヒョウガにそう言われて、ちょっと困ってしまいました。
シュンは、最近北の国のお姫様が開設した海外留学生制度魔法使い部門の試験に一ヶ月前に受かって、南の島に行くこと自体は既に決定していたのです。
費用は全部国が出してくれて、無事に魔法使いになれたあかつきには、国のための3年間の奉仕活動をすることで、留学費用の返済はしなくてもいいことになっていました。

「世界の南の果てにある絶海の孤島で、人はあんまりいないところみたい。その島には先生とお弟子さんが何人かいるだけなんだって」
「なら、確率的に美形もいないか。美形ってのは北の方に多いもんだしな」
ヒョウガからお許しをもらえそうな雰囲気に、シュンはほっと安堵の息を洩らしました。

「俺以外の奴に目移りしないのなら」
ヒョウガに身体を重ねられ、あの青い瞳にじっと見詰められて、シュンは今更ながらにどぎまぎしてしまいました。
シュンは、ヒョウガの青い瞳には魔法の力が宿っているような気がしてならなかったのです――初めて出会った時から。

「そんな暇ないよ。厳しい修行をしに行くんだもの」
シュンにそう言われたヒョウガが、途端に渋い顔になります。
ヒョウガは、そして、少し不機嫌そうに言いました。
「やめておけ。こんな綺麗な手や顔に怪我をしたらどうする」

そう言ってヒョウガが握りしめ口付けたシュンの手は、とても白かったのですけれど、毎日いろんな仕事をしているせいで、滑らかでもすべすべでもありませんでした。
けれどヒョウガは、そんなシュンの手を、高価な宝石でも扱うように優しく触れてくれるのです。
そんなヒョウガが、シュンは大好きでした。

ですから、シュンの決意は揺るぎませんでした。
こんなふうにヒョウガに毎日手を握ってもらえたなら、自分はどんなに幸福になれるだろうと、シュンは思いました。
どんな辛い仕事だって、どんな苦しみにだって耐えられると、シュンは思っていたのです。

「大丈夫。きっと僕がヒョウガを氷の棺から出してあげる。だから、あの……もっとして」
シュンの決意とシュンの求めを聞いて、ヒョウガは少し複雑そうな表情になりました。
もちろんヒョウガは、シュンの求めにはすぐに応じましたけれども。






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