そうしてシュンは、ヒョウガを氷の棺から解放する力を手に入れるために、生まれて初めて故国をあとにしたのです。

ヒョウガの推察は見事に外れて、南の島の修行地でシュンを迎え入れてくれた魔法使いのアルビオレはとんでもない美形先生でした。
アルビオレの髪はヒョウガと同じ金色で、瞳の色もヒョウガと同じ青色で、ちょっとだけ肌が浅黒いところもヒョウガに似ています。
ですからシュンは、最初に会った時から魔法使いのアルビオレに親しみを感じて、ヒョウガと離れてたった一人で見知らぬ国にやってきた不安も すぐに忘れることができたのです。

「北の国のカミュになら、私も幾度か魔法使いの集会で会ったことがある。クールな振りをするのが好きな、眉が二股に分かれている長髪の男だろう?」
「はい」
シュンから魔法使いになりたい理由を聞いたアルビオレは、そう言ってからしばらく、何事かを考え込むような素振りを見せました。
それから彼は、シュンに優しく教え諭すように告げたのです。

「それならば――ヒョウガくんを氷の棺から解放するには、ここでの修行は必要がない。彼が閉じ込められている氷の棺は、愛があれば溶かすことができるもの、愛でなければ溶かせないもののはずだ」
「え……?」
アルビオレの思いがけない言葉に、シュンは軽い衝撃を覚えたのです。
それはいったいどういうことなのでしょう?

「もしかすると、シュンはヒョウガくんに対して何もしない方がいいのかもしれない。北の国のカミュは、ヒョウガくんを氷の棺に閉じ込めることで、彼に何かを教えようとしているのだと、私は思う」
アルビオレにそう言われて初めて、シュンは、これまで無意識のうちに考えまいとしていたことを考えざるを得なくなってしまったのです。

半年に一度、1時間だけの自由時間。
それは、恋する者たちにとっては短すぎるほどに短い時間です。
けれど、自由を手に入れるために あの洞窟からの逃亡を図るには十分すぎるほどの時間でした。
だというのに、ヒョウガは――

「ヒョウガは絶対に逃げないの……」
シュンは、もうずっと長いこと、それが不思議だったのです。
そうしさえすれば、シュンと一緒にいる時間を増やすことができるのにそうしようとしないヒョウガを――そんなヒョウガの気持ちを、シュンはこれまで無理に考えないようにしていました。

「なら、ヒョウガくんは、北の国のカミュが自分に何かを教えようとしていることに気付いているんだろう。だが、それが何なのかがわからないので、氷の棺に閉じ込められている状態に甘んじているのではないかな」
「…………」

アルビオレにそう言われて、そうなのかもしれないとシュンも思いました。
そして、魔法使いのカミュがヒョウガに教えようとしているものは“愛”に決まっている──とも思いました。

“愛”がどんなものなのか、どこから生まれてくるものなのかを、シュンは知りません。
ヒョウガを愛していると思っていましたし、愛されていると信じてもいましたが、それはシュンが一人でそう思っているだけで、シュンは、“反省の色”と同じように“愛”の姿も見たことはなかったのです。






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