ヒョウガは愛を知らない子供でした。
父の顔を知らず、唯一の肉親である母親を亡くしてからは、たった一人で、愛を知らないことを力にして生きてきたのです。

カミュに才能を見込まれて魔法使いになる修行を開始すると、普通の人間が10年もかけて覚える魔法も、あっという間に身につけてしまいました。
けれどヒョウガは、凍らす魔法はすぐに覚えたのに、その氷を溶かす術を知らない子供だったのです。

それでは立派な魔法使いにはなれません。
カミュはそんなヒョウガの行く末を、とても心配したのです。
人を愛し思い遣る心を知らなければ、せっかく身につけた魔法の力も、何のために使えばいいのかわかりませんからね。
それだけならまだしも、強大な力を誤った方向に使って、悪い魔法使いになってしまう可能性だってあるのです。

ヒョウガの偏った力に不安を覚えたカミュは、ですから、ヒョウガを氷の棺に閉じ込めたのでした。

ヒョウガが閉じ込められていた氷の棺は、真夏の太陽の光を100個分集めても溶かすことができないほど強い魔法をかけられていました。
ヒョウガがそうしようと強く望まなければ、決して溶けない氷の棺。
いいえ、望むだけでも、それは叶いません。
自分のために解放を望むだけでは駄目。
誰かを愛する心と思い遣りの心をもって望まなければ決して溶けない氷の棺。
それが、ヒョウガを閉じ込めていたものの正体だったのです。






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