「これまでずっと、僕はヒョウガに愛されていると思ってた。それは嘘だったの?」
魔法使いのカミュから、ヒョウガを閉じ込めていた氷の棺の謎を説明されたシュンの心は 重苦しく沈んでいました。
ヒョウガは、そんなシュンの横で無言のまま。

カミュはそんな二人を見やって、首を横に振りました。
「嘘ではない。嘘ではないが、君がヒョウガのために命を懸けるまで、ヒョウガは自分のために君を愛していたんだ。それは愛には違いないが、表し方を間違えた愛だ。真実の愛とは、まず、愛する対象を思い遣るところから始まる」

アルビオレが、俯いているシュンの頭を軽く小突いて、カミュの言葉のあとを引き受けます。
「だからと言って、ヒョウガくんを責めてはいけない。シュン、おまえだって、ヒョウガくんを氷の棺から解放しようとしたのは自分のためだったろう? ヒョウガくんがいつも自分の側にいてくれれば自分が幸せになれると思ったから、そうしようとした」
それは決して間違いではないのだが――と、アルビオレは呟くように付け足しました。

「じゃあ、僕が一人で空回りしてただけ? 最初からヒョウガの力だけが問題だったの? 僕のしたことは無意味だったの……?」
「そんなことはない。おまえに出会えなかったら、ヒョウガくんは永遠に氷の棺の中にいたかもしれない。ヒョウガくんの力を目覚めさせたのは、シュン、おまえだよ」
「でも……」

それでヒョウガは真実の愛に目覚めることができたのかもしれません。
でもシュンは――シュンがヒョウガに向ける思いは、幼い子供が自分の幸福だけを求めるような未熟なものなのでしょうか。
シュンは、それが恐かったのです。
もし自分がそんなもの・・なのなら、自分にはヒョウガの側にいる権利も持っていないと、シュンは思いました。

そんなシュンの不安を察してくれたのは、意外や魔法使いのカミュでした。
「ヒョウガ一人でも駄目、君一人でも駄目。愛というのは、愛し合う者同士が二人揃った時に、最も大きな力を発揮するものなんだ。二人より多ければ、それはもっと大きな力になる。ヒョウガは誰かを本当に愛することを学ばなければならなかった。一人ではできないことだ」

これまでいつだって不機嫌そうな顔をしていたカミュはそう言って、シュンに笑いかけてくれました。
「君はもう、愛の本当の表し方を知っている。君が生きていることがヒョウガへの思い遣りになるんだ。笑顔でいたら、きっともっとヒョウガは喜ぶと思うのだが」

カミュにそう言われたシュンは、恐る恐る 自分の隣りに立っていたヒョウガの顔を見上げました。
そこにあったヒョウガの青い瞳は――いつからヒョウガはそんなふうにシュンを見詰めていたのでしょう。
ヒョウガの瞳はとても優しく温かく――そして、その瞳にはシュンへの感謝と尊敬の心がたたえられていました。

ですからシュンは、ヒョウガのために笑顔を作ることができるようになったのです。






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