その時・・・には――おまえも、あんなふうに死んでいくのか」
「そうだよ」
むしろ否定の言葉を期待して口にした氷河の推察を、瞬があっさりと肯定する。
それから瞬は、更にあっさりと、氷河に難しい要求を突きつけてきた。

「そして、その時には氷河は、僕のために、それでも生き続けてくれるんだ」
瞬は、氷河に反論を許さないと言わんばかりに優しい口調でそう言って、瞬の肩に頭を寄りかからせている氷河の髪を、右の手で撫でた。
「氷河のマーマと同じだよ。わかるでしょ」
「…………」

そういうものなのかもしれない――と、氷河は思わないでもなかった。
命とはそういうものなのかもしれない、と。
命がそういうふうに受け継がれていくものだという事実は、その命が人間のものならば納得できないでもなかった。

だが、シュンは機械だったのだ。
シュンの命は、人間を模して人間の手によって作られた人工の命だった。
だからかえって氷河は割り切れなかったのである。
シュンの生とシュンの死が、人間の我儘と傲慢の結果に思えた。
自分がシュンを可愛いと感じ、実際に可愛がっていたことすらも、人間の傲慢だったような気がしてならないのだ。

シュンが、自分を作り出した人間への憎しみにまみれて死んでいってくれたのなら、まだ救いもあった。
シュンの命を勝手に作った人間のために、その人間の命を守って、シュンが自分の命の消失を悲しみもせず死んでいったことが、氷河はつらかったのだ。

氷河のそんな考えを察したように、瞬が囁く。
「人間も誰かに勝手に作られたものでしょ。あの子と僕たちと、何にも違いはないよ」

では、人間を作った神という存在も、自らの被造物である人間の命が失われる時には、今の自分と同じような悲しみとつらさを感じるのだろうか――?
そう考えてから、氷河は自らの推察を否定した。

シュンにとっての真の神は瞬だったはずである。
その瞬は、シュンの死を悲しんでいない。
瞬は、シュンの幸福だけを認め、信じているように見えた。
人間を作った神もそういうものなのだとしたら、人が幸福になることは、自らの神に対して人間が負っている義務なのかもしれない。

だが、氷河はシュンの神ではなかったので――その命の喪失を悲しむことしかできなかった。





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