――波の泡立つ音、海獣の咆哮、海水が岩に叩きつけられて響かせる悲鳴。
何が起こっているのかを確かめることが恐ろしく、また、まもなく自分の命が消えることを思えば 事実を確認することは無意味だという考えが、シュンの目を開かせなかった。

シュンのその目を開けさせたのは、
「もう目を開けていいぞ」
という、死んだはずの男の声だった。
数刻前と変わらずに、ひどくのんびりした響きの。

海は夕日のせいではなく赤く染まり、真紅の海面に何か黒い小山のようなものが浮かんでいる。
それが、自分の命を食らうはずだった海獣の腹だということに気付いたシュンは──大きすぎる混乱のために言葉を失った。






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