「問題というか――。瞬に、なぜ叔父上は ご自分で世継ぎをもうけようとしないのかと訊かれまして」 「ぎく」 氷河に知らされた“問題”の内容に虚を衝かれ、カミュ国王は思わず、自分の戸惑いと驚愕を声に出してしまいました。 慌てて、その場をごまかすための作り笑いを顔面に貼りつけます。 「いや、私はどういうわけか、昔から女性にはもてなくて……ははは」 「俺だけが王位継承の責任を担うことはないのではないかと、瞬は言うんです」 余計なことに気のまわる花嫁だと、カミュ国王は僅かに顔を歪め、内心で盛大な舌打ちをしました。 そんなカミュ国王の様子に気付かぬ振りをして、氷河が今朝方書きあがったばかりの台本のセリフを読みあげ続けます。 「順番からしても、俺の結婚などより叔父上の結婚の方が先に行われるべきだと、俺も思う」 「う……」 「瞬は、俺と自分を引き合わせてくれた叔父上にとても感謝しているんです。だから、叔父上の幸せを願っている。叔父上が幸せな結婚をしたその後なら、俺のプロポーズを受けてもいいと 瞬は言ってくれました」 「それは――」 「俺は瞬を愛している。瞬以外の者と結婚する気はありません。瞬がOKと言ってくれるまで、いつまででも待つつもりです」 「私は――」 瞬と氷河の主張は、少なくとも表向きは、国王であり氷河の叔父でもあるカミュの幸福を願うものでした。 カミュ国王は反論の言葉を見付けられず、酸素不足の金魚のように ぱくぱくと口を開き、閉じ、また開いて――結局何も言えないまま。 「では、叔父上の式の予定が決まりましたら、お知らせください」 氷河は、北の国で最も高貴な独身男に慇懃な礼をして、すみやかに彼の部屋を辞したのでした。 |