並列世界というものが本当に存在し、氷河がその中の二つの世界を移動したのだと仮定する。
氷河が存在していた元の世界と、氷河が今いる世界とは、しかし、さほど異なっているようには見えなかった。
氷河が移動してきた世界には、ファンタジー映画でよく見かけるような邪悪な魔王もいなければ、白魔術を使う正義の魔法使いもいない。
人間の言葉を解する動植物もいなければ、妖精や小人も存在していない。

二つの世界は、ただ瞬だけが――“瞬”と“氷河”の関係だけが――違っている世界であるように、氷河には思われた。
まるで、ボタンを一つだけ掛け違えただけの同じ洋服のように。

この世界は、些細な選択の違いが全く異なる結果を生んだ世界――元は氷河のいた世界と同じものだったのではないかと、氷河は思った。
それほどに、二つの世界は酷似し、また全く相違していた。
もしかしたら10年前に、自分が右に進んだ道を左に進んでいたら、今自分がいるのはこの世界の方だったのかもしれないとさえ、氷河は思ったのである。

些細な選択の違い――。
出合った目を、一瞬絡んだ視線を、逸らすか逸らさないか。
喧嘩をした時に、『ごめんなさい』を言うか言わないか。
そんなことで、世界のようは全く違ってしまうのかもしれない。

自分はどこかで何かを間違えてしまったのだろうかと考えて、氷河は軽く唇を噛みしめた。






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