Believing where we cannot prove
―証明できないものを信じて―







城戸邸のどこででも、瞬が泣きだした時、その場に一輝よりも早く駆けつけることを、氷河はほとんど生き甲斐にしていた。
瞬を泣き虫とからかうことで瞬を泣かせていた者たちは、実は本気で瞬をいじめる気は最初からないので――つまり、瞬への敵意も害意も全く有していないので――いつもあっという間に氷河に叩きのめされてしまう。
氷河は氷河で、一輝が来る前に始末をつけておかなければならないと気が急いているため、いじめっ子もどきたちに対してまるで容赦がなかった。

「大丈夫か、瞬」
今日の務めを無事に終えたと言わんばかりに意気揚々と尋ねてくる氷河への返答に、瞬はいつも迷う。
氷河に叩きのめされてしまった者たちが 瞬をいじめているという意識を持っていないように、瞬もまた、自分が彼等にいじめられていたとは感じていない。
些細なことですぐに泣き出してしまう自分が悪いのだと思っているので、こういう時、瞬は、氷河の親切に感謝するどころか、むしろ氷河に叩き伏せられてしまった仲間たちに同情しているのが常だった。

「僕、別にいじめられてたわけじゃ……。氷河、どうしてこんなことするの」
「俺がおまえを好きだからだ」
あっさりと、氷河が答える。
これまでにも幾度も尋ねた質問を瞬が繰り返すのは、今日こそは氷河の口から本当の答えが聞けるのではないかと期待してのことだった。
だが、氷河から返ってくる答えは今日もいつもと同じである。

瞬は、その答えを、瞬には理解できない答えであるがゆえに信じていなかった。
が、氷河はいたって真面目な顔をして言葉を続ける。
「でも、そんなの、口では何とでも言えることだろ。だから、俺はそれを証明したい。おまえを泣かせる奴等をぶっとばすのは、その証明になるだろ? ほんとは、もっと強くてでかい怪獣とか宇宙人とかの方がいいんだけどな。そしたら俺は、命を懸けておまえを悪者から守ってやる」

怪獣にも宇宙人にも、瞬は泣かされたくなかった。
もちろん、氷河にもそんなものと喧嘩などしてほしくはない。
「僕は……氷河にそんな危ないことなんかしないでほしいけど……」
瞬のささやかな希望を、だが、氷河はまるで聞いていなかった。

「せめて一輝がいじめっ子だったらよかったのに。こいつら弱くて、つまんないんだよなー。テレビや映画の正義の味方みたいにカッコよく決めるには、それなりに強い強敵がいないと駄目なんだ」
「それで、どうなるの。僕は心配かけられるの嫌い」
「ぎりぎりの大ピンチを切り抜けて、大怪我しながら、悪者に捕まってるおまえのとこに行って、それでおまえに感激してもらうんだ」
「…………」

いったい氷河はなぜそんな馬鹿げた夢想をするのか。
それがはたして好意の証明になるのか。
そもそも、そんな危険を冒してまで好意を証明することは必要なことなのか――。
瞬には氷河の考えがまるで理解できなかった。






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