互いに少し大人になって再会した時にも、氷河は以前と全く変わっていなかった。
瞬の生還を異様なほど喜んではくれたが、彼が喜んでいるのは、彼が自分の好意を“証明”する機会を得る可能性を取り戻したからにすぎない。
それがわかっていたから、瞬は、氷河との再会を少しばかり冷めた気持ちで受けとめることになったのである。

というより、瞬はその時、旧友たちとの再会を手放しで喜べるような心境ではなかったのだ。
6年の月日を経て仲間たちが集った城戸邸に、瞬の兄の姿がなかったから。
瞬の落胆と不安に全く頓着せず、氷河は彼の野望を実現することだけを望み、意気込んでいるようだったが。

だが、聖闘士になった瞬は、以前のようにたやすく氷河に庇われるような存在ではなくなっていた。
当然、瞬をいじめる悪者を颯爽と倒すことで、瞬への好意を“証明”したいという氷河の願いは叶わない。
再会を喜んだのも束の間、氷河は、“強くなってしまった瞬”に対して、あからさまな不快の感情を隠さなくなっていったのである。

が、氷河の願いは、まもなく思いがけない形で叶えられることになった。
一輝が――瞬の兄が――旧友たちの前に敵として立ちふさがったのだ。

氷河は、嬉々として瞬の兄と闘った。
氷河の期待通りに、一輝は手強い敵だった。
彼は、瞬を泣かせ、傷付け、殺そうとさえし、氷河は彼をたやすく倒すことができなかった。
しかし、それは、氷河にとってはむしろ理想通りの展開だったのである。
一度は瞬の兄に倒され、瀕死の状態から立ち上がり、瞬をいじめる・・・・悪者を、ついに地に叩き伏せる。
それはまさに、氷河が望んでいた通りの展開だった。

だが。
『ついに証明できた!』と快哉を叫ぶ思いで氷河が後ろを振り返った時、そこにあったのは、涙をたたえた瞬の瞳だった。
大切な兄を奪われ、だが恨み言ひとつ言えない立場に立たされた瞬の、ひたすら悲しげな無言の瞳と唇。

その時になってやっと氷河は、自分がそれを“証明”する方法を誤ったことに気付いたのである。
彼が一輝を倒すことで成し遂げたのは、瞬への好意を証明することではなく、ただ瞬を悲しませることだけだったのだ。

幸い一輝は、やがて、まともな人間のそれとも思えない生命力で奇跡の復活を遂げ、瞬の顔にも翳りのない笑顔が戻ってきた。
その事実には、氷河も素直に喜んだのである。
同時に彼は、すべてが振り出しに戻ったとしか言いようのない現実に 歯噛みをすることにもなったのだが。

「どうすれば、俺がおまえを好きなことを証明できるんだ……」
そう呟く氷河の気持ちが、瞬にはやはり理解できなかった。






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