翼を持つ者の住む世界と持たない者の住む世界を隔てている河はとても広い河だった。
両手を広げた瞬が30人並んだよりもまだ広く、橋もない。
河の向こうに行けるのは、翼を持たない者だけと決まっていた。
翼を失った者だけが、ただ一度だけの翼を使わない最後の飛翔で、河の向こうの世界に至ることができるのである。

氷河は河向こうの岸にいた。
広い河を挟んで見詰めあう二人の瞳は、もはや 『悲しい』という感情を伝えることしかできない。

氷河はその場を動かずに、瞬を見詰めている。
瞬は氷河の名を呼び、なぜこんなことになってしまったのかと、もう一度問いかけたのだが、氷河の耳にその声が届いているのかどうかは定かではなく――届いていたとしても意味はなかっただろう。
二人の言葉は通じず、二人は既に言葉では理解し合えないものになってしまっていたのだから。






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