「ん……っ」 驚きの時は一瞬だけだった。 シュンはあっという間に、ヒョウガが誰も愛さないというゲッシュを立てたのは、恋に 重心を見失い、倒れてしまわないためにヒョウガの背にすがろうとした時に、はっと我にかえる。 敵国の王子を愛していないから、命の危険がないから、ヒョウガはこんなことができるのだということに、シュンは思い至った。 だが、それでもヒョウガの手をふりほどけない。 「来い」 ヒョウガはシュンの手を掴み、彼の幕屋の中にシュンを引き入れた。 昨夜までシュンに与えられていた急ごしらえの簡易寝台ではなく、ヒョウガが使っている寝台の上に、彼は彼自身の身体の重みを使ってシュンを横たえた。 再びヒョウガの唇がシュンのそれに重なってくる。 これが罰――これが、神の加護に遮られて命を奪うことのできない騎士に対する報復だというのなら、確かにそれは最も残酷で最も効果的な処罰だったろう。 刑の執行人は受刑者を愛しておらず、受刑者は刑の執行人を愛してしまっているのだから、その残酷さはこの上ない。 たばかられた人間の当然の権利というように、ヒョウガはシュンが身に着けているものを剥ぎ取り、その肌に唇を這わせてきた。 キス以上に巧みなそれが、瞬く間にシュンの肢体から力を奪い去る。 しかし、ヒョウガの前戯はそれこそ形だけのもの、シュンを快くさせるためのものではなく、彼がシュンを蹂躙しやすくするための手続きにすぎなかったらしい。 シュンの陶酔を見てとると、彼はすぐにシュンの身体を押し開き、ひどく性急にその中に彼自身を突き立ててきた。 「ああ……っ!」 残酷なキスと愛撫に酔っていたシュンの五感が、その衝撃に、これ以上ないほど明瞭に覚醒する。 だが、それも一瞬のこと、すぐに再び、シュン自身の喘ぎと呼吸の乱れはシュンの意識を撹乱し始めた。 それでいながらシュンには、自分の中にいるヒョウガをはっきりと自分の肉で感じ取ることができていた。 それは恐ろしく猛っていた。 それを受けとめ絡みついているのは確かにシュンだというのに、そのシュンの方がヒョウガに身体の内を侵略され噛みつかれているような錯覚を覚えるほどに。 「あ……あ、いや……やだ、僕の中……が……」 自分自身を律する力を、これほど他人に奪われたことはない。 手足を動かす力や思考力ばかりでなく、シュン自身にも制御できないシュンの身体の内側をすら、ヒョウガは彼の意思に従えてしまっていた。 ヒョウガはシュンに、支配者の暴力を歓迎することを要求し、シュンの身体はその要求に歓喜して従う。 激しい混乱と初めて経験する痛みと歓喜がシュンを喘がせ、だが、シュン自身の荒い息と早鐘を打つ心臓の鼓動のために、シュンは自分が何を口走っているのかも聞き取れなかった。 その行為を当然の罰と思っていたのは、ヒョウガではなくシュンの方だったかもしれない。 初めてヒョウガが自分の中に入ってきた時の痛みに身体を硬直させ悲鳴をあげた他は、シュンは彼に抵抗らしい抵抗もしなかった――できなかった。 繰り返し幾度も身体を揺さぶられながら、シュンは最後には泣き喘ぎながらヒョウガにしがみついてしまっていた。 それが、いつ、どんなふうに終わったのかも、シュンにはわからなかった。 |