翌朝、シュンの横でヒョウガが息絶えていたなら、シュンはその死を自分が彼に愛されていた証として喜べていただろうか。
自分が彼の死を喜べないこと、嘆くことは、シュンにはわかっていた。
もちろん、そんな『もしも』を考えるまでもなくヒョウガは生きていて、その事実はシュンを安堵させた。
自分が彼に愛されていないことは、悲しく苦しい事実ではあったけれども。


ヒベルニア軍は夜襲の類はしなかった。
土地勘のない場所で夜間に戦うことの危険を知っているせいもあったろうが、夜は専ら、翌朝港を出る船に、昼間の戦いで略奪した食料を積み込む作業に人手を割かなければならないからでもあった。
その仕事に駆りだされることのないヒョウガは、彼の夜のすべてをシュンのために費やしていた。
初めてそれが行なわれた日以後、ヒョウガは戦いのとき以外はシュンに自分の側から離れることを許さなかった。

シュンを非力な子供と思っているのか、ヒョウガは敵国の騎士に対して驚くほど無防備だった。
シュンが剣を携帯していることを知っていながら、武器を取りあげることすらしない。
シュンの身体を使って歓を極めたあとに、自分の横で規則正しく心臓を上下させて眠っている男の胸に、シュンはその気になればいつでも剣を突き立てることができた。

そうすることができないのは、彼が彼のゲッシュを守っているから――彼の上に神の加護があるから――なのだと、最初のうちシュンは無理に思い込もうとしていたのである。
そうではないことに、シュンはとっくに気付いていたのだが。
――なぜかヒョウガが愛しくてならない。
この気持ちもヒョウガを守る神の意思がもたらしたものなのだとしたら、人を愛さないというゲッシュを立ててのけたヒョウガは神以上に残酷な男だと、シュンは思わずにいられなかった。

愛しているのに、自分を愛してくれない男に抱かれ続けることは、シュンを苦しませ、そして狂気に似た感情をシュンの中に育んだ。
愛することなど思いもよらない敵国の王子を、ヒョウガは弄び続ける。
心が手に入らないのなら、ヒョウガの時間でもヒョウガの視線でも、彼の心以外のすべてが欲しいと、シュンは願った。
言葉にはせずに、彼の愛撫をせがみ、ねだる方法を、シュンは身につけた。
ヒョウガに犯されることを快いと感じることができるようにもなった。

ヒョウガがそれをどう考えているのかはわからなかったが、彼はそんなシュンを蔑むような言葉を口にすることはなかったし、嫌悪の表情を見せることもなく、シュンの求めにも応じてくれた。
否、求める以上に与えてくれた。
そして、だが、朝が訪れるごとに、彼は昨日までと同じように生きていて、その事実がシュンを苦しめ、また安堵させた――。






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