ヒベルニアの王から、ガリアでの戦闘を一時中断するようにという命令が下ったのは、シュンが毎朝ヒョウガの心臓の鼓動を確かめるようになってから ひと月ほどが過ぎたある日のことだった。
王からの厳命とあればヒベルニアの騎士たちも従わないわけにはいかず、することがなくなったヒョウガは、昼日中もシュンを抱いて過ごすことが多くなった。
少なくとも戦いでヒョウガが命を落とす危険がなくなったことをシュンは喜んだのだが、ヒョウガは敵国で無為に過ごす日々に苛立ちを募らせているようだった。

「王は何を考えているんだ! 民は飢えているというのに。俺がおまえとこんなことをしている間にも」
「ああ……っ!」
ヒョウガは彼自身がシュンから得ている快楽に罪悪感を抱いているのかもしれなかった。
そしてその罪悪感を忘れるために、シュンを激しく攻めたてる。

彼の下でのたうち喘ぎながら、シュンは、少なくともヒョウガの肉体はこれを好んでいるのだと思うことで、自らの心を慰めた。
身体は、シュンが何も言わずとも、ヒョウガの手や唇が慰めてくれる。
もっともヒョウガには、自分が敵国の王子を慰めているという自覚は皆無のようだったが。


そんなある夜。
起き上がることもできないほど敵国の騎士の相手をさせられて ぐったりしているシュンに哀れみを覚えたのか、ヒョウガが珍しく穏やかな声で、シュンに問うてきた。
裸のシュンの背中を、その指で からかうようになぞりながら。
「おまえの兄は――ガリアの王は、暴虐で残酷な王と聞いている。実の兄とはいえ、なぜおまえのような者がそんな奴のところにいられるんだ」

たとえヒョウガにでも、兄を故なく侮辱されることは耐え難く、シュンは彼に反駁した。
ヒョウガの苛立ちを受け止めるために精を使い果たしたシュンの声にも身体にも、ほとんど力は残っていなかったが。
「ヒベルニアの王様こそ、とても冷酷な王様だと専らの噂です」
「あれが冷酷だったら、この世は冷酷な人間だらけになる」
「兄だって残虐なんかじゃありません。激情にかられることはあるけど、人としての情を持った根は優しい、僕が知る限りで最高の騎士です……!」

痛む身体をなだめ、無理に上体を起こして、シュンはヒョウガに訴えた。
それが彼の気に障ったらしい。
つい先刻まで穏やかだった表情を一変させて、彼は、シュンが自身の身体を支えていた腕を乱暴に引っぱった。
自分の上に倒れ込んできたシュンの腿を鷲掴みにして脚を開かせると、そのままの体勢でシュンの中に侵入する。

「俺の前で、俺以外の男を褒めるな」
突き上げてくるものが、シュンの身体をのけぞらせる。
やがて容赦のない律動が始まり、既に四肢にほとんど力が残っていなかったシュンの意識は、すぐに朦朧とし始めた。

「おい、ヒョウガ。本格的に停戦が決まったらしいぞ。明日、王がこちらにおいでになるそうだ」
中で何が行なわれているのかを知っているらしいヒョウガの仲間の騎士は、ヒョウガの幕屋に入ってこない。
入り口の垂れ幕の向こうから聞こえてきた声が実際にあったものなのか、あるいは幻聴にすぎなかったのか――全身が溶けるような感覚に支配されていたシュンは、既にその判断さえできない状態になっていた。






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